先週後半から英国のノーザンロックという中小金融機関で取付騒ぎが起きている。銀行の取付騒ぎを英語ではbank runという。インターネット上のABOUT.COMという辞書サイトでBank runのことを見ていたらFederal Deposit Insurance has ended the phenomenon of bank runsという説明があった。連邦預金保険が銀行取付という現象を終了させているという意味だ。これは連邦預金保険がある米国では今のところ正しいが、英国では正しくなかったということになる。もっとも今回の騒ぎがあるまで英国でも正しかったのだが。というのは英国では1866年以降銀行取付騒ぎはなかった。米国、ドイツ、日本などでは1930年代初めの恐慌時に銀行取付を経験しているし、日本では90年代後半に多くの銀行で預金者の行列ができたことは記憶に新しい。
ところで今回の取付騒ぎを見ると「金融の世界では技術は進歩しても人々の心とか行動パターンは変わらないなぁ」という思いを新たにするものだ。産業革命で先発メリットを享受した英国だが、激しい技術革新のためドイツなど後発の工業国の方が最新設備を導入したため、長らく工業面で苦戦した。これは今回の話に共通するところがある様だ。19世紀中頃の取付騒ぎの教訓として英国中銀の役割は「最後の貸し手」になることだと自覚し100年以上も取付騒ぎのない金融システムを維持してきた。そのため預金保険の整備が遅れたのは皮肉な話である。
今回のノーザン・ロックの取付騒ぎは英国の預金保護が米国に比べると不完全な点に帰するところがある。一つは保護される金額の上限。細かい説明は省くが米国では10万ドルまでの預金はフルカバーされるが、英国では保護の上限はその6割程度でかつ2千ポンドを超える部分は9割しかカバーされない(最高限度は31,700ポンド)。また米国では銀行破綻から数日で支払われるのに対し、英国では最長半年かかるという。
今週月曜日に英国のダーリン財務相は現在の不安定な金融環境下預金は全額保護すると発表した。これで取付騒ぎは一段落した様だが、モラルハザードに対する批判が起きている。つまり「預金者が今後預金は全額保護されると考えると安全性が劣っても金利の高い銀行に預金をシフトするようになる」という批判だ。
これらの話を聞くと「金融における先進国とはなにか?」という疑問を新たにする次第だ。技術は進歩しても人々の恐怖心やモラルに進歩はないということなのだろう。