経済や金融の世界では時々説明がつかないことが起きる。米国を震源地とする信用収縮の影響で日本株が一番値を下げて回復しないこともその一つだろう。日経平均は8月中旬に一週間で16%下落し、少し回復しているものの、年初に比べてまだ7%下落したままだ。一方震源地の米国の株価はすでに年初のレベルを上回っている。
私も8月中旬のクラッシュ時にアジア株ファンドを少し購入したが、こちらは高い販売手数料を跳ね返し既にプラスに転じている。またかなり円安時に購入した幾つかの外もの投信も円高から一時はマイナスに転じたものの今はプラスに戻っている。駄目なのは日本株だ。今日読んだエコノミスト誌の記事も「投資家は日本株が戻らないという不公平さに悲鳴を上げている」と書いている。
エコノミスト誌の記事のサブタイトルは「日本は米国の信用危機の影響から容易に逃れることはできない」というものだ。これを読めばどうして日本株の戻りが悪いか分かるか?と思ったが、そうはいかない。エコノミスト誌といえどもこのなぞを解明することは難しそうだ。しかし幾つかのヒントはある。
- マッコリー・リサーチのJerram氏は日本の総ての会社の社債の残高は日本のGDPの1割弱でこれは米国のサブプライムや他のハイリスクな債券のGDPに対する割合とほぼ拮抗しているという。
つまり日本は直接金融市場がGDP比で非常に小さいにもかかわらず、その株式市場は信用収縮の影響をもっとも受けた。
- もっともシンプルな説明は欧米の銀行、ヘッジファンドなどは売れるものは何でも売った。外為市場はもっとも流動性が高いのでキャリートレードはすぐにポジションが解消された。日本株市場も大きく流動性が高い。外国人投資家が上場株式の3割を保有し、典型的には取引の3分の2は外国人投資家が行っている。今回の売りは1987年のブラックマンデー以来の巨大な外国勢の売りで、優良銘柄が値を下げた。
- 多くのアナリストは日本の金融市場は米国のクレジット・バブルの崩壊に感染されやすいが、実物経済の影響からは切り離されていると主張する。日本の5年にわたる経済回復は企業投資を中心とした内需主導だという。輸出の米国依存度は20年前の半分の2割になっている。
- もしこれらのアナリストの主張が正しいとするなら、投資家は日本株の底値買いをすると考えるかもしれない。しかし悲観的な意見もある。オリエント・エコノミストというニュースレターは日本経済における輸出の重要性を強調している。2002年に始まった景気回復において純輸出の伸びはGDPの伸びに3割以上貢献している。GDP成長の5分の2の要因である企業投資も輸出企業に依存するところが多い。また直接米国に輸出する比率が低下していても、「三角貿易」という形で最終的には米国に依存している。
- ゴールドマン・ザックスは米国の消費が1%下落すると、日本のGDPが0.43%減少すると見積もっている。
以上エコノミスト誌の記事のポイントを見てみたが、これだけで日本株のパフォーマンスが悪いことが説明できている訳ではない。
以下は個人的仮説だけれど「日本の金利が低いから日本株の魅力が低い」と私は考えている。日本を含む先進国の経済成長速度は鈍化しているので、基本的にこれらの国の株式の大きな値上がり益を期待することは難しい。株式の値上がり益を期待するなら新興国市場だという考え方は基本的に正しい。
では先進国の株式に何を期待するかというと、安定的な配当である。配当水準も金利のスペクトラムの中で決まるから、金利水準が高い程配当利回りも高い。ということで為替リスクを横に置くと外国の高配当銘柄の株を買う方が日本株を買うより良いということになる。また富裕国の高齢化が進むと個人の投資姿勢もキャピタル・ゲイン・ドリブンからインカム・ドリブンに変わるだろう。
従って日本の金利を正常化する、つまりもう少し上げることが日本株の魅力を増やすという主張なのだが、欧米の大所の中央銀行が金利据え置きする中で日銀も簡単には金利を上げることはできない状態だ。ということは低金利が続くので、私の考えが正しいとすれば日本株は引き続き魅力的でないので、あまり上昇しないということになる。
エコノミスト誌の記事にグラフがついていた。それによると98年を100として日米の株価を比べた場合、日経平均は02年に大底をつけて半分になりその後回復して今110を少し下回る水準だ。一方米国のダウジョーンズは上昇した後02年に100まで下落したが、その後回復して今は170位のところにいる。