金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

親父を見て考えた医療問題

2007年09月20日 | 健康・病気

この前の連休には京都の実家に帰った。親父の体調が気がかりだったからだ。親父はここ数年前立腺の病気で医者にかかっていたが、漸く適切な治療を受けられて少し楽になった様だ。「随分医療費がかかるんだろ?」と気になり多少のお見舞いを渡したが、老人保健のおかげで1割自己負担で済んでいるということだった。ナルホド、ところで残りの9割は誰が負担しているのだろう?また今後高齢化が進む中でいつまでも1割負担で済むのだろうか?といった疑問がわいてきた。

そんな時中央三井信託銀行の調査レポート(最新版)で「わが国医療の現状と課題」というレポートを読んだ。日本の医療制度の特徴が簡潔にまとめられていたので、ポイントを紹介しよう。

  • わが国の医療制度は「国民皆保険」「フリーアクセス(患者が医療機関を自由に選べる)」「出来高払いを中心とした診療報酬点数(公定価格)制
  • 一人当たり医療費は2,358米ドルとG7国中最低(米国は6,037ドル、ドイツは3,169ドル)、医療費の対GDP比率も8.0%と最低。
  • 日本の年齢別医療費を見ると、45~64歳が約25万円、65歳以上が66万円、75歳以上が82万円と高齢になればなるほど高くなる。
  • 医療費の財源別割合は保険料が49.2%、税金が36.4%、患者負担が14.4%。
  • 一般歳出に占める医療費の国庫負担割合は1970年の10.1%から2004年の17.1%へとほぼ一貫して増え続けている。
  • 人口千人当たりの医師数はOECD加盟30カ国中27位、看護婦数はちょうど真ん中。一方病床数は際立って多く、病床当たりの医師数、看護婦数は少ない。

ざっとこんなところだ。このレポートの数字や米国で診療を受けた経験を踏まえて日本の医療制度の問題点を私なりに整理してみよう。

  • 日本の効率的な医療システムは世界一の長寿化に貢献している。しかし「患者の生活の質の向上」とか「患者の人権重視」という点で日本の医療制度が良いとはいえない。具体的にいうと日本の病院では余り予約制度がない(今は歯医者は予約が一般的だが、昔は歯医者も予約制が少なかった)。このため患者が病院で延々と待つことになる。つまり患者の自由時間を奪い、生活の質を低下させることと引き換えに効率的な医療を提供している。

なお日本人の長寿さをもって日本の医療が優れていると断定することは危険だろう。寿命の長さには全般的な生活水準、食生活の慣習、公衆衛生、医療水準、生活慣習等多くの要素が絡んでいる。

  • 医者が威張っている(最近は少し良くなったが)。患者の人格を無視して、医療を施してやるという姿勢が目立つ。一方アメリカでは医者もサービス業だという認識が強く、患者の人格を尊重した応対をする。
  • 生活の質の改善を目指したベストの治療を受けられる可能性が少ない。

個人的な話だが、若いときから私は何回か腎臓結石を患ってきた。日本で病院に行くと医者は「痛いだろう。腎臓結石は。でもこれで死ぬことはないから、水かビールを飲んで縄跳びでもして早く石を落としなさい」などと冗談とも本気ともつかぬことをいう。当時超音波で結石を砕く方法も輸入されていたが、保険外治療でべらぼうに高かった。

その後しばらく米国に暮らした時、再び結石が悪化したので医者にかかると直ぐ超音波治療を行ってくれた。米国では公的な健康保険はなく、私的な保険制度に加入する。日本のような保険外治療という概念はなさそうで私的な医療保険で7,8割の治療費がまかなわれたと記憶している。(これはやや古い話で今では日本でも超音波治療は保険対象になっていると聞く。)

ところで親父の前立腺の治療に手間取った理由だが、一つは親父が「病気の初期の段階で医者にかからなかったこと」で何といっても自己責任である。ただ敢えて制度の問題をいうと日本では「ホームドクター」制度がなく、いつでも何でも気楽に相談できる医師が身近にいないという問題があることは確かだ。

高齢者が何でも気楽に相談できる医者~しかもその医者が「一切酒を飲んではいけません」などと人生の楽しさを無視するような態度ではなく、人生の楽しさと健康のバランスを理解した人間として豊かな医者である場合~、ホームドクター制度というのは、トータルとしての医療費削減と患者の生活の質の改善という二律背反的な命題に対する一つの回答になるのではないか?と私は考えている。

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米国の住宅不況の深さ

2007年09月20日 | 金融

欧米の中央銀行が金融緩和に動いたことで、世界の株価は急反発した。しかし投資家の間に安心感が広がるには程遠いだろう。最大の懸念は米国の住宅不況がどれ位深刻かということだ。この予測と当局の対応が米国の経済と世界の経済に大きな影響を与える。慎重な投資スタンスを取るならば、米国の金利引き下げを株式市場が好感して戻ってくれば、少し売っておくのが手だろうと私は考え始めている。

FTによるとイエール大学のロバート・シラー教授が米国の議会の経済小委員会で話をした。シラー氏というのは米国の代表的な住宅価格指数であるS&Pケース・シラー指数を考案したことで有名だ。この指数は当面非常に重視される指数だ。また同氏はドットコム・バブルの崩壊を予測したことでも有名だ。以下は記事のポイント。

  • 「今回の住宅価格の崩壊は大恐慌以降最も厳しいものであることが判明するかもしれない」「住宅不況の影響が及ぼす程度と期間について予測することは困難だ」とシラー教授は述べた。
  • 「住宅価格がピークから2桁(のパーセント)下落しても驚くべきことではない」とグリーンスパン前連銀議長が今週FTに告げた。このような住宅価格の下落は米国では先例がない。そしてその経済的影響は現在の金融危機を招いているサブプライム市場の崩壊の数倍の大きさがある。
  • The Center for Responsible Lending(仮訳「責任ある貸出センター」非営利団体、詳しいことは調べず)の予測によるとサブプライム・ローンの競売によるホーム・エクイティの損失は累積1,640億ドルになるだろう。投資銀行が示唆するところでは金融機関のコストは3千億ドル以上になるという。
  • 専門家は議会の経済小委員会で「住宅価格が15%下落すると家計の富が3兆ドル失われる」と証言した。American Enterprise Institute(米国右派のシンクタンク)のポロック特別研究員は「住宅用不動産は巨大な資産クラスであり、その資産価値は21兆ドルになる。いうまでもなく大部分の家計にとって最大の資産である。」と述べた。「一年前は一部の地域で住宅価格が下落することはあったが全国ベースで住宅価格が下落することはなかった。しかし今では全国ベースで住宅価格は下落している。」

以前にもブログで述べたが多くの米国人は退職時までに住宅ローンを完済し、自宅を売却して別荘地に移住したり、コンパクトな家に住み替えることを考えている。売却差益を資産として当てにしている訳だ。それが借金してでも消費を享受する経済的裏付けになっている。それは住宅価格は下がらないという信頼の上に成り立っているが、その前提が覆ると消費者の心理は冷え込んでしまうだろう。

米国はまことに難しい局面に差し掛かった様だ。80年代の日本の不動産バブルがどれ程尾を引いたかなどと考えながら、資産配分を考える時かもしれない。

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