エコノミスト誌が日本の企業が日米経営モデルのハイブリッド型化していると論じたことは以前にブログで エントリーした。今日はその続きで「労働市場」に関するレポートを紹介しよう。今私は「中途採用」や「人事制度の変革」を取り扱っているので、人事問題に関心が高い。
エコノミスト誌の主張を簡単にまとめると次のとおりだ。
「日本の終身雇用制は緩やかに崩壊しつつあるが、大企業は
正社員の数を減らし、非正規雇用者を増やすことで正社員の雇用を守っている」
「90年代後半の景気後退時に企業は正規雇用者の採用を極端に絞ったので『失われた世代』が発生している」
「非正規雇用者のサラリーは正規雇用者のそれの半分位だから格差が拡大している」
「世界的な競争の中で日本企業が競争力と柔軟性を高めるには、日本の労働市場を改革する必要がある。
具体的には定年年齢到達者と女性の活用である」
エコノミスト誌の論文の中にミッド・キャリア・ジョブ・チェンジ Mid-career job changeという言葉が出ていた。業務経験者の転職という意味だが、具体的な定義はあるのだろうか?と思いインターネットで調べたところ、労働政策研究・研修機構がミッド・キャリアとは「業務経験のある30歳後半から60歳代の人」という定義をしていた。
そういえば少し前に「セカンドキャリア」という言葉があった。これは企業がリストラのため、早期退職を促す時に使った言葉だ。最初の企業時代がファーストで後はセカンドということだが、セカンド=第二の人生=付録的・・・というニュアンスがあり、私はこの言葉を好まない。
これに比べてミッド・キャリア・ジョブ・チェンジというと、「よりやりがいのある仕事とより高いサラリーを求めてキャリア・アップを目指す」という意味合いが強くて気持ちがよい。また一般に転職は35歳までという「言い伝え」があるが、これを打ち破っているところも良い。
この動きを促進しているのは外国企業だ。外国企業特に金融系の外資は、魅力的なサラリーと能力主義をベースにした昇進の可能性をちらつかせて、日本企業から人材を奪っている。
今一般的な戦略は「最初に日本の会社に勤め、外資に移りまた日本の企業に戻って高い地位を得る」というものだとエコノミスト誌は紹介している。
90年代後半のリストラ時代には米国モデルを模倣し成果給の割合を高めた賃金体系が大手企業に導入された。 しかしこれを導入した富士通やNECでは不人気のため手直しをして、成果給の割合を減らしている。
ところで最近中途採用の一次面接の記録が回覧されてきたが、その中にリストラ中の上場ノンバンクの社員の面接記録があった。面接者のコメントは簡単にいうと「応募者は数年の業務経験があるが、目先の成果に追い回されてしっかりした 応接やクレジット・トレーニングが出来ていないようだ」というものだった。
そのノンバンクは少し前までは羽振りがよく、ペイも良かったかもしれないが、勤務員を大事にしない会社だったのだろう。
ミッド・キャリア・ジョブ・チェンジという言葉が示すようにこれからは転職がより一般的になってくる。江戸時代の武士は一つの大名家に仕えるのが普通だったが、その前の戦国時代は七回位主君を変える位でないと一流の武士にはなれないと
言われていた。終身雇用は決して日本人の遺伝子ではない。もっとも七回主君を変えるためには、運が強くて力のある主君に勤める必要があっただろう。力のない主君の下にいたのでは、戦に負けて己の命が危うくなるからだ。
同様の意味で現在でも勤め先特に最初の勤務先は重要である。目先のペイの高低よりも、きっちりしたトレーニングを 施してくれる会社を選ぶ方が長い目で見ると得策だろうと私は考えている。