昨日(12月6日)米国のブッシュ大統領が、サブプライムローンの金利凍結プランを提案した。米国株式市場はこれを好感して上昇し、翌日の東京も日経平均が一時1万6千円を回復した。120万人のサブプライムローン債務者の救済策はまず、リファイナンス適格者にはできるだけリファイナンスさせる。
FTはウエルス・ファーゴ・ホーム・モーゲージのヘイド共同代表が120万人の半分の60万人位はリファイナンスが受けられるだろうと信じていると報じた。
FTは従って残る60万人が金利凍結の恩恵を受けうるといっている。サブプライムローンというのは返済されるまで金利が上がり続けるというローンなので、リファイナンスを受けられない人はドンドン返済金額が増えるという債務者には厄介なローンである。
ただし金利凍結提案については次のような例外があることに注意しておく必要がある。まず今競売手続きに入っている人は除かれる。60日以上延滞している人も駄目。又信用スコアが高い人も駄目。信用スコアが高い人はリファイナンスを受けることができるからリファイナンスをしないさということだろう。そして向こう2年間高い金利負担に耐えられそうな人も駄目というのである。
つまり金利引き上げを免除して貰えそうなのは「今2ヶ月以上の延滞がなくて、信用状況が余り良くなくて、金利が上がると返済できなくなる人」ということなのだ。
これに対して民主党からは「不十分な救済策だ」という批判がある。一方「これではまじめに高い金利を払い続ける債務者が馬鹿を見るじゃないか、モラール・ハザードが生まれる」という批判もある。
一部の法律家からは「総ての契約当事者の同意なしに契約書を修正することは、200年にわたる契約法を侵害するというリスクを犯すものだ」という批判が上がっている。
今回のブッシュ提案は金利の引き上げを凍結するというもので、モラトリアムという言葉を使うには大袈裟そうだが、部分的には返済免除なのでその内partial cessation(部分的支払停止)などという言葉が使われるかもしれない。
ところで債務者救済のため政府が債権者に債権カットを命じることでは、日本が先輩である。その命令は江戸時代には「棄捐令」と呼ばれた。最初の棄捐令は寛政の改革を推進した松平定信が1789年に発したものである。発令当初は債務者の武士は助かったそうだが、その後札差達が武士に金を融通しなくなり、結局社会的混乱を招いたと歴史は教えている。
米国の金融・住宅市場を安定させるためには、私も何らかの「棄捐令」が必要だと見ているが、モラール・ハザードや契約社会の規律とのバランスを考えると相当難しい仕事のようだ。
ただ米国社会というのは平時には原理原則を尊重するが、緊急事態には現実的な対応を行いうる柔軟性がある。私はアメリカの危機対応能力が試される時かもしれないと見ている。