金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

武器調達の根源的問題

2007年12月07日 | 政治

守屋前防衛次官の汚職問題については、激しい怒りを感じていたが、ブログでは取り上げなかった。取り上げると腹立ち紛れに激論を吐きそうになっていたからだ。
守屋前次官の罪は法的には汚職(容疑)だが、もっと大きい罪は日本の自衛隊のロジスティクス(兵站)と内部統制の貧困さを世界に晒したことである。そして国民の自衛隊に対する信頼を大きく揺るがしたことである。
「日本は緩みきっている」という印象を世界に与えたとすると誠に恐ろしいことだといわざるをえない。
何故なら国防でもっとも大切なものは、武器ではなく士気である。国民のために国を守るという軍人の気概と清廉に対する国民の信頼である。

日本は罪刑法定主義の国であり、守屋容疑者が収賄罪で収監されるとしても、私が述べたようなことでは罪に問うことはできないだろう。しかしこのような大罪については、例えば不当利得に対する懲罰的な損害賠償を含む可能な限りの制裁を行うべきである。

それはそれとして、守屋問題は日本の武器調達の根源的問題をあぶりだした。そしてその奥にある旧日本軍から面々と続く「兵站」軽視の悪弊が見えてくる。

日本の武器調達の大きな問題の一つは、武器調達コストが極めて高いことである。「専門家によると日本は全く同じ装備に欧米の10倍のコストを払っている」とFTは述べている。一つの例が自衛隊が富士重工がボーイングとのライセンス契約
の下で作製するAH64アパッチ戦闘ヘリコプターの購入だ。米軍はボーイング社から一機30百万ドルで購入するが、自衛隊は富士重工に一機216億円を支払う。これは約196百万ドル。つまり米軍の6倍のコストだ。
どうしてこのような高コストになるかというと、ボーイング社がAH64の製造を止めたので、富士重工が部品やサポートを確保できなくなり、当初60機以上納入する予定だったAH64が13機で納入ストップとなった。このため富士重工に新設した製造ラインのコスト400億円が追加コストに乗ってきたため、このように高いヘリコプターを買うはめになった訳だ。

より一般的な問題としては日本は武器輸出を事実上禁止しているので、武器製造にスケールメリットが働かず、単価の高い武器を自衛隊が買うことになっている。自衛隊が買うということは納税者である我々が買っているということだ。

私は国産の武器にこだわる理由はほとんどないと考えている。戦車やヘリコプターが国産であっても、食糧も燃料も米国に依存している日本では、米国の協力なしで戦争の持続など考えられないからである。燃料も食糧もないのに、ドンガラの戦車だけが国産だといっても何程の意味があるのだろうか?

もう一つの問題は自衛隊が武器調達の機能を商社に丸投げしていることである。武器の調達は長期継続するため、本来は武器メーカーと長期契約を結び調達を確保する必要があるが、現在の予算システムの下では難しい様だ。
このあたりにも商社が介在する理由がある。
これらの問題の根本には国と自衛隊が「優れた兵器を安くしかも確実に調達する」という兵站の基礎を軽視しているからに他ならない。
それは旧日本軍が攻撃を極端に重視し、兵站を度外視した無茶な戦争を行い、一度国を滅ぼしたことに通じるものである。

守屋容疑者はこの様な日本の国防の根源的問題を国民と世界に示したということだ。もし我々がこれを奇禍として武器調達問題を根本的に考え直すのであれば、災い転じて福となすということだろう。しかしこの問題を放置しておくと、日本の国防の根本的弱点を世界に晒したまま終わるということになる。


それにしても守屋被告、8年間に300回のゴルフとは良くやったものである。私は肘や腰への負担を考えてゴルフは年に,8回程度で十分と考えているので、年に40回近くもゴルフをやるという意欲にだけは敬意を払いたいと思う。

コメント (2)
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