ギリシアなど欧州諸国の債務危機が高まって以来、欧米のマスコミは財政赤字問題を大きく取り上げている。債券市場で信用が懸念された国の国債スプレッドは急上昇し、その負担が将来国民の背中に圧し掛かってくるからだ。
焦眉のギリシアだが、3月3日にパパンドレウ首相がより厳しい財政緊縮案を提示したことから、とりあえず50億ユーロの起債に成功した。起債額の3倍の申し込みがあった(ニューヨーク・タイムズ)が、これは年率6.37%というドイツ国債の倍の利回りで投資家を誘い込んだものだ。タイムズによると「今回の投資家は長期保有を目的とした機関投資家で、投機的なヘッジファンドではない」(ギリシア財務局)ということだ。
パパンドレウ首相が3日に発表した財政緊縮案は三度目(過去2回の緊縮案は欧州諸国つまり市場から信任を得られなかった)のもので、付加価値税の最高税率を19%から21%に引き上げる、燃料・タバコ・アルコール類の税金を更に引き上げる、年金を凍結しする、公務員のボーナスを30%カットする・・・というものだ。
ギリシアのこれまでの財政緊縮案が市場の信頼を得られなかった理由は「ギリシア社会主義政府~全ギリシア社会主義運動~が、脱税取り締まりと富裕層への過度の課税に頼りすぎていた」からだ。そこでパパンドレウ首相は、労働組合の抵抗にも関わらず、報酬削減に踏み込んだ訳だ。
ギリシアの公務員組合と主な労働組合~組合員約200万人~は、金曜日正午から4時間のストライキを宣言しているし、更に3月6日から24時間のストを予定している。しかし労働組合の猛反発にも関わらず、パパンドレウ首相は世論調査に従い、大部分の国民が彼の財政緊縮案を支持することにかけている。
ギリシア政府はとりあえず50億ドルの起債に成功した。しかし同政府は向こう2ヶ月の間に既存債務のロールオーバーのため、更に200億ドルの起債をする必要がある。だがギリシアがドイツの2倍ものプレミアムを払い続けることはできないとパパンドレウ首相は述べている。何故ならこのプレミアムが緊縮財政で浮かせる資金を食いつぶしてしまうからだ。
ギリシアがドイツ並みの低スプレッドで起債することができるかどうかはドイツ政府が投資家に事実上の保証を与えるかどうかに関わっていると見ておいて良いだろう。
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大きな財政赤字を抱えているのは、投機家に狙い撃ちされているギリシアやポルトガルだけではない。日本も米国も大きな財政赤字を抱えている。日本の場合は、95%の国債が国内の投資家が保有していて、その投資家に他の運用手段がない(正確にいうと見つけることができない)ので、うたかたの平静さを保っているのだ。
エコノミスト誌はWho pays the bill?という記事の中で、「誰が財政赤字のツケを払うのか?」という議論を展開していた。同誌は「主な断層線はしばしば世代間にある」という。つまり今日のツケを次世代が払うという世代間の先送りだ。特に公務員の年金と健康保険が次世代の大きな負担となるので、現在の受益者も年金支給開始年齢を遅らせるなどの給付削減が必要だと同誌は述べる。
もう一つエコノミスト誌の主張で注目しておくべき点は「経済の研究が示唆するところでは、増税に依存する財政調整よりも、支出削減に依存する財政調整がうまくいく」という点だ。増税は日本が1997年に消費税を引き上げて失敗したように、景気回復を殺してしまう。
経済が順調に成長すると税収が増え、雇用保険等の社会保険料が削減する。順調な経済成長が財政再建の王道というべきものだろう。
今日の日経新聞朝刊に中前国際経済研究所の中前代表が「デフレ前提の成長戦略を」という論文を書いていた。その中で「設備・雇用の過剰を解消するには、規制改革を推進して医療産業等非製造業の拡大を図ることが求めれる」という主張を行っていた。
エコノミスト誌は多くの政治家の経歴は債券市場により左右されると結んでいた。右寄りか左寄りかよりも、冗費を省き、将来に過大な負担を残さない政策を強力に推進できるかどうかが、政治家としての評価を決めるということである。