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山好き金融マン(OB)のブログ
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公的年金基金、リスク運用を増やす・・・米国の話だが

2010年03月10日 | インポート

米国の公的年金基金が運用収益確保のため、リスク資産への投資を増やしているという記事がニューヨーク・タイムズに出ていた。

記事によると民間の企業年金は株式投資を減らし、債券投資の比率を高めているが、公的年金は逆の動きをとっている。

GM、ヒューレッド・パッカード、J.C.ペニー、ボーイングなどの米国の大企業は、年金資産を株式から債券にシフトしている。ボーイングのCIO(チーフ・インベストメント・オフィサー)ワード氏は「年金基金が大きくなればなるほど、低リスク戦略を採用するようになる」と述べている。成熟した大企業の年金基金は株式市場の下落で年金資産が毀損することを恐れるからだ。これらの基金は債券をラダー運用(債券の満期を少しづつずらして購入する)し、満期まで持ち切りにすることで運用リスクを回避している。満期となる債券の元本や途中の利息を年金給付に充当していく訳だ。

大手コンサルタント会社・タワーズ ワトソンの調査によると、企業年金基金の3分の2は株式への資産配分を2010年末までに減らすと計画している。典型的には株式への資産配分を10%減らすというものだ。

エコノミスト達はこの年金基金の株式離れが、市場の重しになると懸念を抱いているが、その影響は長くは続かないとも彼等は述べている。

一方米国の公的年金は全く逆の理由で米国株式投資比率を下げる動きを示している。彼等は米国株の期待リターンでは満足できず、外国株やプライベート・エクイティに高いリターンを求めている。

大部分の公的年金は長期的な予定利率を8%としている。これは株式の投資利回りを9.5%、債券の投資利回りを5.75%とする前提の下、株式6:債券4の比率でポートフォリオを構築するというものだ。だが過去10年間の多くの公的年金基金の平均的な利回りを3%強だった。

「今日の市場環境を考慮して予定利率を下げるべきだ」という専門家が増えている。しかし年金基金側は「それはできない。何故なら予定利率を下げると年金債務が急拡大するからだ」と言う。

予定利率の変更が年金債務にどのような影響を与えるかを開示している基金は少ないが、少ない基金の中でコロラド州の年金基金の例をタイムズは紹介している。

それによると資産規模300億ドルの同基金は予定利回り8.5%で179億ドルの積み立て不足となっている。同基金は予定利回りを0.5%下げて8%とすると、積み立て不足は214億ドルに拡大し、予定利回りを0.5%上げて9%にすると、積み立て不足は150億ドルに縮小する。コロラド州は現在の予定利回りで計算される積み立て不足すら解消できないから、予定利回りを下げて、積み立て不足の拡大を表面化させることはできない。

ここに多くの公的年金基金が高い利回りを求める理由がある。

記事によるとウイスコンシン州の基金は、株式へのエクスポージャーを下げてインフレ連動債の投資を高めることにした。しかし単純にインフレ連動債に投資しただけでは予定利回りを達成することができないので、「リスク・パリティ」戦略というレバレッジ戦略~つまり年金基金がデリバティブを使ってレバレッジをかけるというもの~を使うことを決めている。

☆   ☆   ☆

株式リスクを回避する企業年金と更に高いリスクを求める公的年金というアメリカの構図は日本にも当てはまる。日本の大手企業の年金も予定利率を国債利回りに連動させるようなプランを取ることでリスク回避型になっている。一方中小企業の業界団体などが作る総合年金基金の場合は、設立母体(中小企業)の追加拠出が余り望めないので、過度の運用リスクを取る傾向がある。

日本の国の年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)については、この前厚生労働省が従来の資産配分を踏襲すると発表していた。記憶によるとGPIFの目標利回りは4%強だった。日本の低金利を考えるとこの水準でも達成することは難しそうだ。

サブプライム危機、金融危機、ギリシアなどのソブリン・デッド危機・・・・そしてその次の大きな危機は・・・・先進国の低金利持続による年金基金の危機(年金債務の拡大と運用リスクの高まり)なのだろうか?

コメント
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