金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

トヨタ車に対するクレームは他のメーカーより多い

2010年03月02日 | 社会・経済

ニューヨーク・タイムズは「データが示すところでは、リコールの対象になっていないカムリにも問題があった」という記事の中で、トヨタ車に対する衝突に関わるクレームは他のメーカーの車に対するクレームより多いという調査報告を発表していた。

タイムズの日米の記者が調査したところでは次のようなことが明らかになっている。

・タイムズが過去10年間の米国幹線道路安全局に提出されたスピード・コントロールに関する12,700件のクレームを分析したところ、フォードが一番多く約3,500件だった。トヨタへのクレームは3,000件で二番目である。しかし事故につながるクレームでは、トヨタが1,000件と一番多く、フォードは450件だった。

・まとめると2000年から2009年の間、トヨタは米国で販売した車20,454車につき、1件の割合で速度制御に関する事故クレームがあったことになる。フォードは64,679車に1件、ホンダは70,112車に1件、GMは179,821車に1件の割合である。

・タイムズが日本でのクレームについて調査したところ、同様の傾向が見られた。2001年以降の報告を見ると、トヨタ車の「突然の加速」に関するクレームは、他のメーカー車より多い。2001年以降国土交通省に持ち込まれた車の機能不全に関するクレームをタイムズが調査したところでは、トヨタが3,700件でホンダが2,400件だった。その内「突然の加速」に関するものは、トヨタが99件でホンダは18件だった。販売台数から見るとトヨタは15万台に1件の割合で急加速問題があり、ホンダは30万台に1件の割合で同じ問題があったことになる。

交通安全環境研究所の谷口哲夫主任調査員は「トヨタ車のアクセルペダルやフロアマットが日本の急加速問題の原因でないとすると、トヨタは何が問題なのか調査すべき時期である」と述べている。

トヨタは「リコール対象となった車はアクセルかフロアマットに問題があったが、2007年以前に米国で販売されたカムリと日本で販売された車の大部分は、異なるデザインのペダルとフロアマットを使っているので、リコールの必要はない」と説明してきた。

だがタイムズがこのようなデータ分析に基く問題を提起するとトヨタも苦しくなるだろう。それにしてもこのようなデータを見ると「トヨタの安全神話」は昔の話だったのか?という気がしてくる。あるいは日米当局にファイルされたクレームを別の切り口から見ると、トヨタは他よりも安全という結論も引出せるのだろうか?・・・・・それは分からないが。

それにしても、トヨタにとって結構重たい記事が出たものである。

コメント (1)
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正常化への遠い道のり

2010年03月02日 | 金融

各国の中央銀行が正常化normalityへの回帰を掲げだした。たとえば先週米連銀のバーナンキ議長は議会で「大部分の金融市場の相当な改善に対応して、連銀は金融危機時に創設した特別流動性機能を段階的に縮小していく」と証言した。しかし同議長は同時に金融政策は引き続き超緩和基調を維持することを明らかにした。

英国では破綻した住宅ローン銀行ノーザン・ロックの総ての債務に対する政府の明示的な保証を終了させた。しかしバンクオブイングランドのキング総裁は、明示的な保証を取り払ったことで状況は大きく変わらないことを明らかにしている。

これらの状況をFTは「(金融・財政政策の)正常化への足取りは大きいように聞こえるけれども、事実上は極めて小さいものである」と解説する。

FTは正常化への道のりは極めて長いだけでなく、5つの重要な未解決の問題により複雑化していると述べる。

第一の問題は、現在の金融・財政政策が正常と呼べる状態から極めて離れた状態にあることだ。先進国の政策金利はゼロ金利に近い状態で、新たな資産バブルを引き起こす危険性がある。G7の財政赤字は1950年の状況、つまり第二次世界大戦直後の状態である。銀行システムは、暗示的ではあるが、G7の包括的な保証で支えられている。

第二の問題は、多くの金融指標が金融システムのストレスが大きく減少したことを示唆しているが、この平常さが持続するかどうか、政策的なサポートと暗示的な保証を取り止めても耐えうるかどうかは極めて不透明である。

更に「新しい正常」がどのようなものか誰もまだ知らないことも問題だ。例えば政府は公的債務が高止まりすることを受け入れるのか?それとも一世代をかけて公的債務を金融危機前の水準まで減少させるのか?ということの合意はない。

第四の問題は、各国は別々に「出口」に向かうことができるのか、それとも一斉に「出口」に向かう必要があるのかという点だ。先週IMFは「それぞれの国により、問題は違うので先進国と発展途上国は出口戦略について別々の調査をしなければならない。しかし金融市場に対する介入手段の撤収については、金融システムは強く連環しているので各国間で一貫性を保つべきである」と結論付けた。

第五の問題は「出口戦略の正しい順序は何か?」ということだ。ピーターソン・インスティチュートのPosen氏は「ボルカー連銀議長とレーガン大統領の政策ミスマッチが、金利急上昇を招いたことを鑑みれば、中期的な財政再建Fiscal consolidationに対する信頼できるコミットメントが金融引き締めに先行するべきである」と述べている。

☆        ☆    ☆

デフレに苦しむ日本では、「日銀に対して、政府が追加の金融緩和を求める圧力を強めている」(3月2日日経新聞朝刊)。政府が日銀に期待しているのは、国債買取の増額だ。しかし日銀は「財政規律への懸念が強い中で国債買い増しをすると市場が『財政赤字の引き受け』と受け止めて長期金利が急騰しかねない」と判断して、政府要望に応える気配はない。

もし日銀幹部がFTの記事の中のPosen氏のコメントを読むと、自説への確信を高めるだろう。

☆   ☆   ☆

FTは別の記事で「2001年から量的緩和を実施して、金融危機を乗り越え、その後正常化させた日本の経験に他国は学ぶべき」と書いていた。その中で金融危機時に欧米の中央銀行が市場から買い入れた資産は、日銀が購入した資産より足の長いものなので、市場に売却して、市場から流動性を吸収し、「安全に着地」することは日本の場合より困難だろうと述べていた。

「幸せな人々は同じように見えるが、不幸な人々はそれぞれの理由で不幸である」(アンナ・カレーニナの一節)は、各国の金融危機にも当てはまる。

☆   ☆   ☆

話は全く変わるが、日経新聞は今月から有料でインターネット版を充実させると発表している。紙ベースの購読者は月千円でインターネット版を閲覧できるし、紙ベースで購読していない人からは月4千円取るということだ。こちらの方は恐らく海外在住の日本人をターゲットにしているのだろう。

ファイナンシャル・タイムズのインターネットの年間購読料は199ドル(約1.8万円)で、日経購読料の4割以下だ。日経のネット購読料はいかにも高いと思うがどうだろうか?

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