Is the glass half empty or half full?という言葉は直訳すると「グラスは半分空か?それとも半分満たされているか?」ということだが、「モノゴトを楽観的に見るか悲観的に見るか」という比喩として使われるイディオムだ。勿論「半分空」というのが悲観論で「半分入っている」というのが楽観論。
エコノミスト誌が、昨年第4四半期の世界の貿易状況をまとめた記事の書き出しで、次のように使っていた。Is the glass half empty or half full for world trade? 世界の貿易を悲観的に見るか楽観的に見るか?ということだ。
楽観的なデータはオランダの経済政策分析局が3月1日に発表した世界の貿易量に関するデータだ。第4四半期の世界の貿易量は前年同期間に較べて6%増加している。もっとも2009年全体では世界の貿易量は13.2%減少した。1961年に統計が始まって以来、貿易量が減少したのは1975年の-1.9%と82年の-0.9%だから、いかに昨年の落ち込みが激しかったかが分かる。だが昨年12月だけで貿易量は5%増加しているから回復基調にある明るいデータという訳だ。
しかし世銀が発表している「貿易額」に関する統計は第4四半期に貿易額が減少していることを示している。貿易量と貿易額の増減が違う方向を示すことは、為替の影響でままあることだ。だがエコノミスト誌は12月はクリスマス・シーズンで商取引が活発化するから12月のトレンドが翌年も続くとは限らないと述べている。
輸出量が顕著に増えているのは発展途上国で、第4四半期に8.7%増えた。一方先進国の輸出量は4.1%しか伸びなかった。工作機械のような精緻な商品については、発展途上国は先進国からの輸入に依存するが、日常の商品については、発展途上国がより貧しい国に輸出する傾向が強くなっているので、発展途上国の貿易量が増える訳だ。
昨年の貿易額は最悪の2月からほぼ3割回復した。しかし金融危機前の状態に較べるとまだ2割少ない状態だ。「回復」に焦点をあてると「グラスの半分は満たされている」ことになり、「2割少ない」方に焦点をあてると「グラスの半分は空」ということになるという訳だ。
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ところで「グラスが半分空か?半分入っているか?」のレトリックに話を戻すと、技術者の間では次のような言い伝えがあるそうだ。「グラスは半分空でもなく、半分入っているのでもない。ちょうど半分入っているだけだ」
つまり技術者は事実を直視するのみ、ということだろう。
すこし話を広げると、我々は心の持ち方で幸せにもなれるし、不幸にもなれるという考え方につながる。例えば3千万円の老後資金を持っている人が「3千万円もある」と感じるか「3千万円しかない」と感じるかで幸福感は大きくことなる。
後3年の寿命と宣告された人が「寿命は3年しかない」と考えるか「3年も生きることができる」と考えるかで幸福感は大きく異なるだろう。なんて偉そうなことを書いたが、私自身はグラスの水を見てその時々で「半分空だ」とか「まだ半分入っている」などと一喜一憂しているのである。