金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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米国の医療改革法案は出発点に過ぎない

2010年03月23日 | 国際・政治

先週日曜日(3月21日)米国の医療改革法案が僅差で下院を通過した。今日にもオバマ大統領が法案に署名するといわれているから、法案が成立することは確実だ。この法案に民主党側は「1960年代の公民権法に匹敵する出来事」と評価する一方、共和党は一丸となって反対している。また世論調査では消極的反対を含めると反対意見が多い。私にはこの法案について色々分からないことが多い。何故分からないことが多いかというと、この法案そのものや成立過程に、アメリカ人の医療や社会保険に関する考え方、議会の仕組みなど知らないこと、分からないことが沢山詰まっているからだと思う。

また医療保険制度そのものが分かっていないことも大きな問題だ。医療保険制度というものは自国の制度についてもよく分かっていない。例えば日本に長期入院などで医療費が高額になる場合、一定の自己負担限度額を超えた額が払い戻される高額療養費制度http://www.sia.go.jp/seido/iryo/kyufu/kyufu06.htmという制度がある。この制度は数年前入院するまで知らなかった。

このことから類推するに、恐らく「今回の医療改革法案で何が変わるの?」ということについて大部分のアメリカの消費者はよく知らなかったのではないだろうか?そして漠然と「全員加入の健康保険になると保険料が増えるあろう」と考えていたのではないだろうか?

だからニューヨーク・タイムズに出ていた「消費者のために保険制度の変更点を明らかにする」For consumers, clarity on health care chagesというような記事の閲覧件数が多いのだと私は考えている。

【医療保険改革、何がどう変わるのか?】

まずはっきりしていることから幾つか例を上げよう。まず子供の保険加入年齢制限が引き上げられる。現在の健康保険(すべて民間)では、概ね子供の加入年齢は18歳か19歳までになっているが、これが26歳に引き上げられる。若者の非就業者が増えているので、助かる家族は多いと思われる。

次に法律が発効して3ヶ月以内に、慢性病等で保険会社から保険加入を拒絶されていた人は、「高リスク保険プログラム」に加入することができる(高い保険料は補助の対象となる)。

2014年から所得税の課税対象になる以上の所得がある人は、保険に加入する義務が発生する。保険に加入しない人には95ドルまたは所得の1%(いずれか高い方)の罰金が科せられる。これより所得の低い層で65歳以下の人は連邦政府の保険制度であるMedicaidに加入することができる。Medicaidは従来からある制度だが、対象者が「貧困レベルの所得の133%または約2万9千ドルの所得」に拡大した。

これよりやや所得の高い層(貧困レベルの所得の133%から400%)は、公的支援を受ける「保険取引市場」で補助金を受けて、保険に加入することができる。

【変わらないことは?】

大企業に勤めて、会社が手当てする健康保険に加入している人々には大きな変化はなく、保険料や保険範囲が異なることはない。会社を辞めて個人で保険に入る場合など、慢性病による謝絶を受けるリスクがなくなるのでプラス面が多い。

【改革で負担が増える人は?】

改革で負担が増えるのは、富裕層だ。例えば年収25万ドル以上の家計は「投資収入」に対して3.8%の税金を課せられる。また2018年からは従業員に「高額医療保険」(従業員個人に10,200ドル以上か家族込みで27,500ドル以上)を付与してる企業は超過保険料に対して40%の税金が課せられる。

【では総医療費は増えるのか抑制されるのか?】

ここが一番分からないところだ。分からないのは私だけではない。専門家も分からないと言っている。タイムズはThe legislation won't quickly bend the cost curve for medical care or insurance premiums-no one has yet found a surefire way to do thatと言っている。

タイムズは中期的に見て医療費削減の有力な武器は「高額医療保険」に対する課税措置だと論じる。つまり金のある企業が従業員に高額な保険を付与する。従業員は自己負担がほとんどないので、医者にかかった時高額な治療法法を選択する(あるいは医者が高価な治療法を推薦する)。しかし企業が課税を避けるため高額な医療保険を抑制すると、患者や医者は、もっとコストを考えて治療法を選択するようになるという訳だ。

連邦議会予算事務局(超党派)は、今回の法改正で向こう10年で9,400億ドルのコストがかかるが、それは収入で相殺され、向こう20年では1兆ドルの赤字削減効果があると主張している。

しかしこの推計には反対意見も多い。エコノミスト誌は共和党議員Ryan氏の「医療保険改革は財政のフランケンシュタインで、10年間のコストは9,400億ドルではなく、2兆4千億ドルだ」という主張を紹介している。

重ねて言うがこの法案について私には分からないことが多い。いや将来に医療費がどうなるかを中心に分からないことが多いから、米国で議論が二分するのである。

「この法案の長所は保険対象者を拡大することにあるとすれば、弱点は医療コスト抑制効果である」とエコノミスト誌は総括する。民主党寄りのタイムズも「医療改革法案はゴールではなく、出発点に過ぎず、保険料と医療費抑制は今後の努力による」と述べている。

☆    ☆    ☆

個人的な経験を一つ述べると私は米国で勤務していた時、腎臓結石を超音波で砕く治療を受けたことがあった。腎臓結石は渡米する前から患っていたが、当時の日本では「超音波療法」は健康保険外の治療で100万円かかるといわれていたので見合わせていた。渡米後結石が再発したので、医者に行くと早速「超音波」ということになった。会社が提供する保険制度に入っていたので余り大きな負担がなく、治療を受けたことを思い出した。

民間保険制度が医療費を押し上げていることは確かだが、医療技術の進歩や痛みのない快適な生活に貢献~日本にいた時は結石が痛むと痛み止めを飲んでいた~も事実だ。

今日本では保険診療と保険外診療の混合=混合診療http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B7%B7%E5%90%88%E8%A8%BA%E7%99%82を解禁しようという主張が目立ってきた。

米国が「国民皆保険」に向けて一歩踏み出す時、日本が混合診療解禁に向かうと両国の制度は正常化に向かう・・・と私は思うのだが・・・・

コメント (2)
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