金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

「此処彼処(ここかしこ)」を読んでいる

2010年03月25日 | 本と雑誌

「此処彼処」は川上弘美さんの自伝的エッセーだ。ブックオフで偶然見つけたので、会社の行き帰りに読んでいるところだ。このエッセーは数年前日経新聞の日曜版に連載されていた。時々読んでいたが内容はすっかり忘れていた。

川上さんの小説(「センセイの鞄」など)は読んだことがないが、エッセーは文庫本で読んだことがあった。川上さんのエッセーには春霞のような透明感があると僕は思っている。あるいはトイカメラで撮った写真のように、周辺がぼやけて、でも優しくて、レトロな味がある。

「此処彼処」の中に246号というエッセーがある。246号は国道246号のことだ。「お母さんづきあい」がうまくゆかなかった日、川上さんは車を運転して、どこだったか分からないけれど神奈川県の246号を入ったところの農家に出合った。そして農家の裏手の小さな空き地で、真珠ぐらいの小さな白いものを拾った。

それは臼歯だった。

川上さんは臼歯を持ち帰り、今も紅茶の空き缶に入れて持っている。

エッセーは「臼歯を見つけたあの瞬間のぞっとするような違和感を思い出したくて、わたしはときどき空き缶を振ってみる。空き缶の壁に軽く当って、臼歯はからりと音をたてる。人づき合いは、今も下手だ」と結んでいる。

これって本当にあった話なの?と思ったりする。この臼歯について川上さんは「色は少し褪せているが、虫歯の跡のまったくない、手入れの行き届いた、たぶんヒトの、臼歯」と書いている。

普通ヒト(つまり他人)の歯なんか拾って持ち帰り、長く手元に置くものかしら?気持ち悪くないかなぁと疑問に思ったりする。

でもこのちょっとした異様さが「人づきあいは、今も下手だ」と呼応している。臼歯を大事にしているような人は人づきあいにはなじまないような気がする。

恐らく僕は川上さんほど人づきあいは下手ではないだろう。少なくとも家族や友人はそう思っているだろう。だが時々一人の時間を楽しみたいと思うことがある。恐らく大部分の人と同じように。

そんな時僕は神代植物園や奥多摩の山を歩いている。臼歯を見つけることは無理だろうから、「此処彼処」をポケットに入れて行き、小さなベンチか切り株の上で読んでみようかなと考えている。

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元が決済通貨になる日

2010年03月25日 | 金融

今日(3月25日)の日経新聞朝刊に「日本のインキ最大手のDICが日本と中国の間の貿易決済で初めて人民元建ての決済を行った」と報じていた。中国政府は人民元の国際化に向け昨年7月、貿易決済に人民元建てを一部解禁した。

ご承知のとおり人民元は一部の例外を除いて、他の通貨と自由に交換することができない。このため決済通貨として利用されることはなかった。だが中国の台頭と米ドルの緩やかな低落が予想される中で、人民元はやがて主要な決済通貨になると予想されている。

その時期は何時頃なのだろうか?

少し前に読んだWhen China rules the world(中国が世界を支配する時)は、この問題について以下のように述べている。

「人民元の兌換性は5年から10年の間に改善し、2020年までに人民元は完全に兌換性を備え、米ドルと同様に売買することが可能になる」

「その時までに総てではないにしろ、多分日本も含めて、大部分の東アジアは人民元システムの一部分となるだろう」

「中国が東アジアの主な貿易相手国であることを考えると、人民元建てベースの取引を行うことが自然であり、東アジア諸国にとって自国の通貨をドルにペグするより、人民元にペグする方が自然である」

そして同書は人民元が完全に兌換性を備えた時、人民元は米ドル、ユーロとともに、主要な準備通貨となるだろうと論じている。その時期については恐らく20年から30年以内に起こる可能性が高いと見ている。

☆   ☆   ☆

20年というと先の話に見えるが、中国4千年の歴史を尺度とすると、瞬きをする間の時間だろう。もし中国の指導者達が、人民元を決済通貨にするメリット~米国はドルを決済通貨としたことで莫大なメリットを得てきたが~を理解していて、そのために何をしないといけないかを把握しているとすれば、目先の人民元安問題に目くじらを立てる必要はないのかもしれない。

むしろ日本は人民元が東アジアの決済通貨になる時、どのような影響を受けるのかを考える時期なのかもしれない。

コメント (2)
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