チュニジアの政変は26歳の男子の焼身自殺から始まった。17歳で学校をやめ弟妹のために路上で果物売りをしていたBouazizi青年はある朝婦人警官に婦人警官から(恐らく)不法出店のかどで袖の下を求められ商品を押収された。彼は「泥棒になるべきか、死すべきか」と県庁の門の前で抗議の焼身自殺を図った(死んだのは数日後)。
フォーリン・ポリシー紙は「アラブ世界の若い軍隊」The Arab world's youth armyという題で、職に就けないアラブの若者が急増し、それが政情不安の大きな原因になっていると論じる。その冒頭に出ていたのがBouazizi青年の話。アラブの世界で職を得るには、wastaと呼ばれる「コネ」とお金が必要だ。コネがない人間は就職する機会がない。
フォーリン・ポリシー紙は米国のNPO団体Population Action Internationalのある研究内容を紹介しているが、それによると1970年から1999年の世界の騒動・紛争の80%は30歳以下の人間が6割以上を占める国で起きている。
若者と騒動の相関関係が高いことは、わが国の歴史を見ても安保闘争や学生運動が盛んだった頃のことを思い起こせば納得がいく。
そこで昨今紛争が起きたり政情不安が予想される国の年齢構成を調べてみた。ただし30歳以下の人口比率を調べるのが面倒だったので、CIAのワールドファクトブックから平均年齢と「0-14歳」「14-64歳」「65歳以上」の割合を引出してみた。合わせて、失業率、インフレ率、貧富格差(GINI指数)が騒動と関係するかどうか調べてみた。
ことの始まりのチュニジアの中位年齢は29.7歳で「0-14」が22.7%、「15-64」が70.1%を占める。30歳以下の割合が6割以上と推測される。失業率は14%だがインフレ率は4.5%とそれ程高くはない。ジニ指数は40、日本の38よりは高いが米国の45よりは低い。
次にエジプト。中位年齢24歳、「0-14」が33%を占める若い国だ。失業率は9.7%で米国並み。インフレ率は12.8%と高いがジニ指数は34.4%と日本より低い。アルジェリアの中位年齢は27.1歳で「0-14」が25.4%とここも若い国だ。失業率は9.9%でインフレは5%、ジニ指数は35.3だが、貧困層が23%いる。
リビアも若い国で中位年齢は24.2歳で「0-14」が33%を締める。失業率は30%とかなり高いがインフレ率は3%だ。
ところで独裁政権下で起きている騒動の波は中国にも押し寄せる可能性はあるのだろうか?
中国の中位年齢は35.2歳で「0-14」は19.8%。中国では30歳以下が6割を超えた時代は過ぎ去った。中国の公表失業率は4.3%、インフレ率は5%だ。ただしこれらの数字に信憑性がないことは多くの人が承知している。中国の失業率は都市部の定住者を集計したもので、出稼ぎ労働者を加えると倍になり、農村部の失業者まで加えると計算不能というのが実情だ。またインフレ率は実際には10%近いという説もある。これらの数字から類推すると、ジニ指数が41.5で貧困率が2.8%というのをどこまで信じて良いか疑問は残る。多くのリスク要因をかかえる中国だが「人口構成」から見る限り、騒動リスクは少ないと判断できそうだ。
因みに日本の中位年齢は46.5歳で「0-14」の比率は13.5%で、人口構成上は世界で一番騒動リスクが少ない国といえるだろう。
だがその日本の高度成長を牽引した大きな要因は、戦後生まれの団塊の世代である。団塊の世代が80年代の消費ブームや住宅建設ブーム、さらには土地バブルを牽引した。若年層の拡大が経済の拡大と歩調を合わせることができる場合は若者は繁栄の前提条件になる。しかし労働市場に流入する若者が職を得ることができないない場合、騒動のリスク要因となる。