エコノミスト誌のデイリー・チャートに2011年の経済成長率予想でトップ10とワースト10が出ていた。
成長率第1位はカタールで15.8%。エコノミスト誌によると液化天然ガスプロジェクトとインフラに焦点をあてた財政拡大政策が成長のドライバーだ。2位がガーナ、3位がモンゴル、4位がエリトリア。エリトリアはエチオピアの北の国。エチオピアは5番目。このあたりは失礼ながら世界経済に与える影響は軽微だし、投資対象としてもエキゾチック過ぎると思う。6位と7位は本命の中国とインドで、エコノミスト誌の調査部門EIUは成長率をそれぞれ8.9%、8.6%と予測する。
一方一番成長率が低いと予想されるのはプエルトリコで-4%を超える。去年国債危機問題を賑わしたギリシアはワースト2で成長率予想は-3.6%。アイルランドは下から5番目で-0.9%。ポルトガルは下から3番目で-1.1%程度。イタリアは下から6番目でスペインは下から10番目。それぞれプラスの成長見込みだが、1%にははるかに届かない。
因みにこのデイリー・チャートのタイトルは「地に落ちたPIIGS」である。
ところで高い経済成長が予想される国は1位のカタールを除くと一人当たりGDPが相対的に低い国だ(カタールの1人当りGDPは12万ドルでルクセンブルグについで世界第2位)。
一人当たりGDPの低い国が大きな伸び代(のびしろ)を持っていることは容易に想像が付くところで、FTのコラムニストMartin Wolf氏はその原動力を「賃金の世界的な収束」と表現している。企業は安い労働コストを求めて発展途上国の労働力を使うので、究極的には世界の賃金は収束するという考え方と理解して良いだろう。
Wolf氏のエッセーIn the grip of a great convergence(巨大な収束の支配下で)の書き出しはConvergent incomes and divergent growthである。収入の収束と成長率の離散という意味だ。因みにcon(あるいはcom)という接頭語は「共に」という意味でdiという接頭語は「離れること」を意味する。Vergentは「方向に向かう」というvergeという言葉から来ているので「収束・収斂」あるいは「離散・発散」となる訳だ。
さて中国が経済成長で先行した日本や韓国の跡を追っているというのは衆目が一致するところだ。今日の日経新聞「経済教室」では青木 昌彦氏が「中国沿岸の1人当り実質GDPは日本の70年代後半、韓国の80年代なかばに近づいている」と述べている(Wolf氏は「中国の一人当たり実質GDPは日本の60年代半ば、韓国の80年代半ば」と述べている)。
先進国並みの豊かさを目指す発展途上国の活力が経済成長率の差を生み出すが、問題はその持続性とスケールではないだろうか?
スケールについてはFTの孫引きだがバーナンキ連銀議長が昨年11月に「2010年の第二四半期の新興国経済の生産高は2005年の始まりより41%大きかった(中国では70%、インドでは55%)が、先進国経済では僅かに5%拡大しただけだった。新興国にとって大不況は一時的な下落に過ぎなかった」と述べている。
だが急速な経済成長は色々なひずみを生む。今年ワースト成長率が予想されるPIGGSも少し前は好景気を享受していた。
2010年は賃金の収束と成長率の拡散という大きなトレンドが再確認された年だったが、2011年が無難にその軌跡をたどると考えるかどうかは議論のあるところだろう。インフレや社会的騒擾が一時的に成長の足かせになる可能性は排除できない。成長の持続性がテーマになるかもしれない。だが私は少なくとも10-20年という期間で考えると「賃金の収束」トレンドは続きそうだと考えている。