今日(6月5日)アベノミクスの第三の矢である成長戦略について3回目の講演を行う予定の安倍首相。規制改革の具体策が大きなテーマになるようだ。
昨日テレビを見ていたら経団連のメンバーに対するアベノミクスに対する評価を「晴・曇・雨」マークでレポーターが聞いていた。安倍内閣の高い支持率を見て、自民党にすり寄りはじめた経団連のメンバーだから、当然にほとんどの人が「晴」マークを出していた。だが企業のトップ達は本当にアベノミクスを推進しよう、と考えているのだろうか?
たしかに円安・株高・景気回復・物価の2%上昇は企業にとって悪い話ではない。ただし非常に重要でかつ達成が難しいハードルがある。それは「自社の物価上昇分だけ値上げできるか?」という問題である。
先週からの日本株の大幅下落を「急速な値上がりに対する一時的な調整」と見るか「安倍相場の終わりの始まり」と見るかは、意見の別れるところだろうが、私は外国人投資家の間で「アベノミクスの金融相場は既に終わった。しかしデフレ脱却は非常に難しいのではないか?」という見方が広がりつつあることの影響が出ている、と判断している。
なぜデフレ脱却が難しいか?というと「コモディティを販売している企業間の価格競争が激しくてコストアップを商品に転嫁できない」からである。たとえばガソリン価格だ。スタンド間の過当競争が激しいので中々小売価格を引き上げることができない。一つのスタンドが値上げをすると他のスタンドに顧客を奪われてしまう。
ニューヨーク・タイムズは、自販機業界の状況を取り上げて、販売価格の引き上げが難しい状況を説明していた。
記事によると1960年代にコカ・コーラが初めて自販機販売を始めた時の値段が1本約50円、インフレ時代は3年毎に10円値段が上がり、1983年には100円に達した。しかしその後は足踏みが続き、1998年には120円になり、それが今日まで続いている。いや、現在では一缶80円で販売する業者もいるように、120円以下で販売する業者が3割に達している。
これは自販機がどこにでもあるからだ。時々人里離れた山の中でも自販機に出くわすことがある。さすがに何時投入された飲料なのか不安なので利用することは殆どないが。業界資料によると自販機の台数は人口33人に1台の計算になるとか。自販機はリースで取得されることが多いが、リース会社が安いリース料でリースを組むことも過当競争の要因の一つだ。
「赤字が拡大するなら販売を減らす」というのが、常識的な企業行動のはずだが、日本の会社は必ずしもそのような行動はとらない。例えばこの前まで続いていた円高下では、あきらかに輸出すると赤字になる場合でも輸出を続けた企業があった。だから日本に輸出額は円高になっても急速には減らない。一方円安になっても急速には増えない(円高時より営業利益は増えるが)。
ではどうすれば過当競争を減らすことが出来るか?
まず労働人口の減少により、需要が減っているのだから供給を減らさなければならない。交差点の四つ角に3つもあったガソリンスタンドは1つが減ったように。企業合併、廃業、場合によっては倒産をもやりやすくする方法を促進するべきだ。そしてそこから生まれる労働力を新しい分野に振り向ける、これがないとデフレ脱却は進まない。
そのようなところまで安倍政権が踏み込めるかどうかを本当の投資家は今見始めているはずだ。だが大手マスコミは政権との蜜月関係を重視して踏み込みが浅い。またもし企業トップの中に「景気が良くなれば、私が社長の椅子に座っている間は合併はないな」というような人がいてアベノミクスに旗を振っていたとすれば、甚だしい自己撞着であろう。