昨日(6月16日日曜日)のNHKスペシャルhttp://www.nhk.or.jp/special/detail/2013/0616/は中国各地で起きる農民と地方政府の衝突、そしてその一つの解決策としての「紛争仲介人」の問題を取り上げていた。NHKのホームページによると「中国政府は、大規模な予算をあてて、人々の不満を緩和しようと懸命に取り組んでいる。 新生中国は、各地で高まる民衆の不満を解消し、更なる成長を続けることができるのか。」ということだが、私はかなり懐疑的に見ている。
中国の「都市化政策」は実質的には2,30年前にスタートしているが、改めて強調されたのは昨年12月の中央経済工作会議だった。そこで「都市化を積極的かつ穏便に推進し、都市化の質を高める」ことが改めて決めれた。なぜ都市化の推進が改めて取り上げられたか?というとそれが輸出に代替する経済成長エンジンと考えられるからだ。
ニューヨーク・タイムズはChina's Great Uprooting:Moving 250 million into cities「中国の大移転:2億5千万人を(農村から)都会へ」というタイトルの記事で、都市化政策の危うさに警鐘を鳴らしている。Uprootという言葉は「根こそぎ引きぬく。根絶する。(人やものを元の環境から)引き離す」という意味で、まさに農民を農村から引き剥がして都市に移住させる、ということだ。タイムズによると、中国政府の最終的な目標は、2025年までに国民の7割、9億人を都市に住まわせるというものだから、まさに大移転だ。だが「大移転」という言葉が記事に登場する理由はその規模の大きさのゆえだけではない。それがGreat Leap Forwardつまり「大躍進」の現代版と反対派には見えるからである。大躍進政策は1958年に毛沢東が推進した大増産政策だが、結果は数千万人の餓死者を出す失敗に終わった。
中国政府の狙いは「都市化に伴う大規模なインフラ投資」「都市化した住民の所得増・消費増に伴う持続的な経済成長の維持」だが、目論見通りにいく保証はない。
都市化による経済成長拡大の試みは、ブラジルやメキシコでも行われたが、結果としては失業率の拡大と都市の貧困層の拡大に終わった。
中国の農民が都市移住に反対する理由は、彼らの土地が不当に安い対価で収容されることだけではない。就業やライフスタイルに対する不安が大きいのだ。たとえ都市に移住した当面の雇用は確保されるにせよ、50歳、60歳になっても雇用される保証はない。また長年農業に従事してきた人たちにとって、やることのない都市でどのような生活を送るのか?ということも大きな不安材料だ。
教育レベルが低く専門的職業経験がない農村からの居住者が、職を失い貧困層に転落するリスクは大きい。
中国の都市化政策は、農村の自然環境・伝統的文化の破壊と都市における貧困層の拡大を招くリスク大であり、そのそのメリットを受けることができるのは、既に経済的基盤を確立している都市住民の一部にとどまるのではないだろうか?