今日(6月29日)NHKの「観光革命がニッポンを変える」を見た。どうすれば外国人観光客をもっと増やすことができるか?ということに関する内外の識者の討論だった。
色々な話が出ていたけれど私は「今の日本にはバカンスvacances(長期休暇)の意識もなければ、その施設も極めて少ないことが一番の問題」だと感じた。
国内旅行のパンフレットを見ても、一泊二日か精々二泊三日のパックものが多く1週間、2週間の長期滞在型はほとんどない。ここがバカンスが主流の欧州との大きな違いだ。
「観光」は英語でいうとsightseeing。つまり何かを見て回る、という意識が強く働く。だから一筆書き的に有名スポットを飛び回るプランになる。だがフランス語のバカンス(長期休暇)は、英語のvacancy(空っぽ)と語源は同じ。つまり何もしないでぼーとする時間、ということだろう。
アメリカ国内で大西洋に臨むリゾート地のホテルに泊まったことがあった。私たち家族は海に入って短い休暇を楽しんでいたが、何人かのアメリカ人の宿泊客は、ビーチパラソルの陰で、波の音を聴きながら読書に耽り、読書に疲れたら眠りに落ちていた。そこには何もしない贅沢な時間があった。まさにvacantな時間と空間である。
日本に外人観光客を増やそうと考えるなら、長期滞在ができる施設やもてなし方法を考えるべきだ。まず今の旅館は料金が高過ぎて長期滞在的でない。次に「何か本格的なことをする」仕組みを欠いている場合が多い。先ほどは「何もしない贅沢な時間」と書いたが、正確にいうと「何もしないことをする」という意味では、心身を脱落させることができるファシリティの提供も立派なしくみだ。
「何もしない」時間は「アクティブに何かをする」時間と対になるものだ。だから本格的にアクテイブな活動をする舞台も欲しい。冬ならば本格的なオフピステのスキーが楽しめるような環境、夏ならば乗馬やフライフィッシングが楽しめるような環境などが良いだろう。
長期滞在して楽しめる環境とエンターテイメントをもっとリーズナブルな値段で提供する施設が増えてくると日本にも外人観光客が増える可能性があると私は考えている。だがそのような施設を「外国人向け」に作る必要があるのだろうか?むしろ我々日本人が休みの過ごし方や休暇のあり方を見直して、もっとバカンスを楽しむようになるべきなのだろう。そしてそのようなファシリティが増えてきた時、自然に外国人利用客も増えるというのがこの国の正しいレジャー産業のあり方だ、と私は思っている。我々の意識を変えないで、観光産業を変えるというのは本末転倒である。