今年のブラックフライデーの売上はパッとしなかった。米国で感謝祭(11月の第4木曜日)の翌日をブラックフライデーと呼び、クリスマス商戦の始まりの日とされる。ブラックフライデーの売上は消費動向を占う上で重視されている。
全米小売業協会が12月1日に発表したところでは、過去7年間で初めて売上が減少した。感謝祭の日から日曜日までの消費者一人あたりの平均支出額は407.02ドルと昨年の423.55ドルを下回った。
ブラックフライデーに対しその次の月曜日をサイバーマンデーと呼ぶ。これは2005年に作られた言葉で1年間でネット販売が最大になる日とされる。米国のIBMが3日に明らかにしたところでは、携帯機器を通じた販売が拡大したので今年の売上高は前年比21%増となった(なお昨年は前年比30%の増加)。
消費者の購入チャネルや小売店の営業姿勢が変わっているので、ブラックフライデーの売上だけで消費動向を判断するのは早計かも知れない。全米小売業協会はブラックフライデーの売上が低調だったにもかかわらずクリスマスシーズン全体では小売売上高の総額は前年比3.9%増加すると予想している。
だがブラックフライデーの低調な売上の原因を別の角度からズバッと切る人がいる。
CNBC.comは「連銀が実施している債券購入プログラムなどの金融緩和策による「資産効果」Wealth effectは機能せず、富裕層と貧困層の格差が拡大したことをブラックフライデーのパッとしない売上高が証明している」という野村證券のアナリストの言葉を紹介していた。
リーマン・ショック後の所得の回復状況について、カリフォルニア大学のSaez教授は所得上位1%層の所得は2008年の金融危機以降31.4%増えたが、それ以下の99%の層では所得の伸びは0.4%にとどまった、と述べている。この結果2012年末では上位1%が全所得の50.4%を得るに至った(これは1917年以降最高のレベル)
このようなことが起きた原因の一つが連銀の金融緩和つまり大量の流動性供給である。富裕層は金融相場を利用して、そして時にはレバレッジ(借入)効果を使って配当を生む資産を積み上げたので所得が拡大した。
つまりWealth effectは超富裕層に最も効果的に機能したが、運用資産を持たないものにはほとんど機能せず、彼等は財布の紐をまだ緩めていないという見方だ。
これは米国の話だが、やがて日本のアベノミクスでも同じようなことが起きてくる可能性があると私は考えている(だからといってアベノミクスに反対である、という訳ではない。ただし総ての薬がなんらかの副作用を持つようにアベノミクスも副作用を持っていることは認識しておく必要があるという話だ)
つまり金融緩和政策の持続は一定の資産効果を生む。しかしその恩恵を受けることができるのは、リスク資産を保有する資金力と若干のリスクテイクマインドを持つ人だけである。資産効果はやがて消費拡大と言う形で、経済全体を拡大すると期待されるが、資産効果は限定的なので、消費者全体が消費を拡大することはない。やがてアベノミクスの期待通り物価が上昇し始めると資産効果の恩恵や賃金上昇の恩恵を受けない層~典型的には年金受給者層~は、財布の紐を締めざるを得なくなるのである。