金融そして時々山

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安易な住宅資金援助に注意~アメリカの話だが

2014年07月01日 | 社会・経済

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に「親は子の住宅資金援助をするべきか?」という記事がでていた。この記事は幾つかの点で興味深かった。

一つは学生ローンの債務負担が若い世代に重くのしかかり、住宅購入の頭金の準備が難しくなっていることだ。また従来の常識では親が子に資金援助をすることは希なことだったし、親が子を近所に住まわせることを望むことも希だった。しかしこのあたりが少しずつ変わってきているのではないか?と感じた。その理由は若い世代が安定した収入が保証された職にありつけないことが大きいのだろう。

全米不動産協会の調査によると、初めて住宅を購入する人の住宅購入者全体に占める割合が低下している。2008年からの平均は35%だが、今年4月には29%に低下している。

全米不動産協会のグラフを見ると2010年中ごろから、初めて住宅を購入する人の割合が4割を超えたことはないが、それ以前では時々新規購入者が5割を占めていることがあった。

さて親は子の住宅資金援助をするべきか?するとすればどういう点に気をつけるべきか?

  • 援助するにしても老後資金まで考慮して無理のない範囲で行うべきだ。贈与でなく貸し付ける場合でも、貸したお金は戻ってこないこともあると考えるべきだ。
  • 住宅購入資金を贈与する場合は、贈与税・相続税の問題を考慮するべきだ。年間子一人当たり1万4千ドルを超える贈与は、生涯の贈与控除の枠外となり、高い相続税につながる可能性がある。
  • また住宅購入資金を貸し付ける場合は、受取利子に注意する必要がある。子から利息を受け取らない場合やその利息が内国歳入庁の基準より低い場合は受け取っていない利息についても「帰属利子」imputed interestとして課税される可能性がある。
  • 一部の子に資金援助を行った場合、他の兄弟が腹を立てる可能性がある。

だがWSJの記事がもっとも力点を置いているのは、以上のような問題をクリアしたとしても、子の今後のキャリアパスや家族構成の変化などについて十分考慮しないと子にとってもマイナスになる可能性があると警告している点だ。

「時として親は自分たちが住んでいる高級住宅地の近くに子が住むことを望み、頭金を贈与すれば彼らの生活が楽になると考える。しかし親が描く子の理想のライフスタイルは、子の収入を超えていることがあるかもしれない。それは総ての人にとって悲劇になる。」平たくいうと、背伸びをして高い住宅を購入した場合は、頭金を親に助けてもらったとしても毎月の返済に苦しむということなのだ。

少し切り口は違うが、日本では「親が子に残したい資産」と「子が親から受け継ぎたい資産」の間にミスマッチがあることが、相続問題複雑化の一因になっているという見方がある。親が子に残したい一番の資産は不動産だが、子は不動産を望まず、むしろ現金を望む。

アメリカでも日本でもある程度資産を持つ親は自分たちのライフスタイルを踏襲して欲しいと子に望んでいる。しかし子の世代の経済環境は親の世代よりはるかに厳しい。親の望みが子の負担を増やし、双方のマイナスで終わることがあることに注意するべきだ。

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