山登りとデジタル・インターネットの世界は一見対極にある。重い荷物を背負い、汗をかき、自然に親しみ、そして時には危ない目に遭う山登りはリアルな世界の極北にある。
ヘミングウェイは「自動車レース、闘牛、登山、キャニオニングだけがリアルスポーツだ」といった。一方デジタル・インターネットは対極のバーチャルな世界にある。だが先端的な登山はその時々の先端の科学技術を駆使して行われてきた。
たとえば酸素ボンベ、ナイロンのテントやザイル(今では当たり前過ぎるが)、気象衛星を使った天気予想などなどである。つまり登山とは「科学技術を駆使する最も合理的な方法で、登って降りてくるという最も非合理なことを行う」行為なのだろう。
もっぱら一般的なルートを登ることが多くなった我々中高年登山者も結構科学技術の恩恵を受けている。たとえば雨が降っても「濡れずにしかも蒸れない」ゴアテックスのアウターなどだ。軽くて快適な装備が手頃な値段で手に入るようになったので、中高年の登山の地平線も拡大しているのだ。
さて科学技術の一つであるITと登山の関係も深い。昔は山岳部の部室で古い山岳雑誌や他のクラブの会報などを読みながら、登山記録を収集していたが、今ではインターネットで登山記録を調べたり、海外のトレッキングガイドブックをキンドルで簡単に読めるようになった。
これから何回かのシリーズに分けて「IT活用の山登り術」と書いていく予定だが、既に多くの登山者の方が実践しておられることも多いと思う。あまり目新しい話はないかもしれないが、多少なりとも効率的で安全な登山の参考になれば幸いである。
なお話の前提は「幾つかの職場を別にする中高年登山愛好者10-20名位のグループが年に数回まとまって一般的なルートを登山する」場合にどのようにITを活用すれば効率的かつ安全か?ということである。
ところで登山と他のスポーツの際立った違いの一つは「企画・実行(登山)・結果の発表」(PCP 私が勝手に作った略語 Plan Climb Publishの頭文字)の内、企画と発表のウエイトが大きいことだと私は考えている。この話もPCPの各フェーズで展開することにした。
前置きが長くなったが、そろそろ具体的な話に入る。
第1回目は「対象の山を絞り地形図を準備する」である。
「対象の山を絞る」ことについて、話のタイトルとは矛盾するが私はアナログからスタートする方が良いと考えている。
つまり「紙の本」を何冊か読むのである。深田久弥選択の百名山本でも良いし、山と渓谷などの雑誌でも良い。「紙の本」が良いところは一覧性があることと、インターネット上の情報より信頼性が高いことだ。紙の本を読んでイメージがまとまってから、インターネットで追加的なそしてアップデートな情報を集めると良いだろう。
さて対象の山が決まると次は「地形図」を読んで登る山とルートのイメージを作っていく。昭文社などが発行している「登山地図」については参考程度にとどめ、国土地理院が作成している2.5万分の1地図を読むことを私はお薦めしたい。ルートがはっきりしている夏山だけを歩くのであれば、「登山地図」でも良いのだが、踏み跡が雪に覆われた雪山を歩くことや無雪期でも多少バリエーション的なルートを歩くことを考えると「地形図」を絶えず持ち歩くべきだろう。
幸いなことにインターネットで無料で簡単に国土地理院の地図を見ることができる。
http://portal.cyberjapan.jp/site/mapuse4/index.html#zoom=5&lat=35.99989&lon=138.75&layers=BTTT
写真は私が今年8月上旬にグループ登山を行う予定の安達太良山の地形図をパソコンに取り込み、登る予定のルートに赤線を入れたものだ。無料ソフトでもこれくらいのことはできる。また取り込んだ地図をクラウド(マイドライブ)経由でスマートフォンでも見ることができるようにした。ただしスマートフォンは電池の持ちが短いので、登山中に頻繁に見ることは好ましくない(あくまで予備)。プリントした紙の地図を持って行くべきだ。
なお登山愛好家の中には有料のカシミールという地図ソフトを使っている人も多いと思う。私もGPSと組み合わせてカシミールを活用している。
カシミールの活用については次回説明したい。
今回私が言いたいことは「無料で地形図を入手で時代きるだから、登山者の方は一人一人自分で地形図を用意して山に入りましょう」ということである。中高年の登山事故で多いのが道迷いだ。地図と磁石で道迷いはかなり防ぐことができるはずだ。