金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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賃金格差の原因は企業規模の違い?

2015年03月15日 | 社会・経済

エコノミスト誌にThe bigger, the less fairという記事が出ていた。

記事の要旨は次のとおりだ。

・エコノミスト達は、長い間規模の経済により、大きな企業の方が小さい企業より、生産性が高く、従って賃金が高いと認識してきた。しかしこのことは理論的には、企業の中の賃金格差に結び付くものではない(つまり小企業の社長も職員もともに大企業の10%低い報酬を得ていると仮定すれば)と考えれれてきた。

・だが最近発表された"Wage inequality and firm growth"(著者H.Mueller他)によると、企業規模が大きくなるにつれて、トップ層と中間層以下の賃金格差が拡大していることが、英米の実例から明らかになった。

・論文の著者はこの現象について2つの説明ができると示唆している。一つは大きな企業は小さな企業より、仕事の自動化が容易であり、非熟練労働者からの賃金引上げ要求に抵抗し易いというものだ。それに加えて、賃金レベルで中位層の新入社員が大企業での低賃金を受け入れる傾向があることも説明材料だと述べている。なぜなら長期的に見れば、大きな企業の方が小さな企業より昇進・昇給する可能性が高いと考えているからである。

・世界規模の大企業を経営するのと、小さな企業を経営するのでは、異なった(そしてより希な)才能が求められるため、大企業の上級職のみが高い給料を享受することができる。

・著者は1981年から2010年にかけて、OECDの中の15か国について最も大きな企業群と賃金格差の相関関係を調べ、そこに強い相関関係があることを確認した。

・総てのエコノミスト達がこの現象を忌まわしいことだと考えている訳ではない。より大きな企業の方が小さな企業より、設備投資比率が高く、経済成長に貢献するからだ。

この記事は日本のことに言及していないが、日本も同じ傾向にあることは間違いない。

以上のような新説の紹介を行った後、エコノミスト誌は「もし各国政府が大企業が助長している賃金格差を是正しようとして、労働市場の改善を試みるなら、それは功を奏しないだろう。むしろ中小企業による市場参入障壁(特に銀行融資の障壁)を減らすことで、競争を高めることが、所得の不均衡と経済成長を同時に達成する道だ」と結論付けている。

この結論はもっともらしく聞こえるが、私は今の日本にはどうも最適の処方箋ではないと思われる。

むしろ今の日本で必要なことは「同一労働・同一賃金」の考え方を徹底することが、賃金格差是正の基本だろうと考えている。つまり雇用形態が正規社員であれ、派遣社員であれ、同じ仕事をしているのであれば、同じ賃金が支払われるべきだという考え方だ。

「同一労働・同一賃金」ルールは欧州ではかなり徹底していると聞く。まずこの考え方をベースに置かないと日本の場合は賃金格差は是正されないだろう。次に業種によっては既に大企業間で過当競争が起きている分野が多い日本で中小企業の参入障壁を下げることが、企業内の賃金格差是正に有効かどうか疑問である。

むしろ日本の場合は「同一労働・同一賃金」ルールにより、雇用形態の影響を抑制し、人材の流動化を促進することで、企業再編を促進する方が先ではないか?と感じているのである。

 

 

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銀行ATMというガラパゴスの行方

2015年03月15日 | 投資

昨日(3月14日)WSJは「日本の大手行がATMを外国人が使えるようにする方向で動いている」という記事を書いていた。

記事によると日本を訪問する外国人旅行者が一番悩むことが、銀行ATMから自分の持っているキャッシュカードで現金を引き出せないことだ(セブン銀行など一部の例外はあるが)。

日本の銀行のATMシステムは、日本以外の世界的なシステムから隔離されて純粋日本仕様になっている点で携帯電話と並んで「ガラパゴス」の典型だ。

2020年のオリンピックを控えて、政府は過去数年間銀行に、ATMで外国のキャッシュカードを使えるようにして欲しいと要望を強めてきたが、銀行は中々思い腰を上げなかった。

銀行が腰を上げなかった理由は明快だ。ATM利用料によって、投資を回収することが極めて難しいからである。海外カードを受け付けるようにするための開発コストは「ATM1千台で数十億円かかる」というのが事情通の見解だ(WSJによる)。

それでも大手行は重い腰を上げて、一部のATMで海外キャッシュカードを受け付ける計画を発表している。

WSJによると、三井住友銀行は6千台のATMの内1千台を2017年3月までに海外キャッシュカード対応にすると言っている。また東京三菱UFJは今年8千3百台のATMの内1千台を海外キャッシュカード対応にすると言い、みずほ銀行は5,600台のATMの内今年の早い時期に100台を海外カード対応にすると言っている。

銀行がATMを運用するコスト負担は大きい。恐らく最大のランニングコストは現金の搬送コストだ。銀行ATMは、銀行にとって赤字分野である。

WSJはNTTデータ経営研究所・上条洋マネージャーの「ATM運営は銀行にとってコスト負担が大きいので、銀行はATMをコンビニに任せて自らは撤退しようと考えているだろう」という言葉を紹介している。

ATMはAutomated Teller Machineの略。つまり以前は銀行窓口でテラーに依頼していた業務を、機械を通じて顧客が自ら行えるようにしたものである。日本の銀行ATMが他の主要国のATMに較べて複雑になっているのは、通帳記帳機能だろうと私は考えている。

コンビニエンスストアのように、色々な銀行顧客が使うことを前提にしたATMでは通帳記帳機能がない。だから個々の銀行ATMよりコストは安いはずだ。

銀行が預金業務の管理コストを本気に下げることを考えるならば、普通預金の通帳を廃止し、ステートメント(月次異動明細)の郵送・インターネット取り込み方式に変えることだろう。ネットバンク等元々支店がない銀行では、当然通帳はなく、総てステートメント方式で特に違和感はない。だが店舗を構える昔からの銀行は無通帳の普通預金を導入しているところもあるが、ユーザは多くないと思う。

無通帳預金者にポイント還元などのインセンティブを与えて、あるいは通帳利用者から通帳発行料を取って(これはまず不可能だろうが)、普通預金の無通帳化を進めることが、預金業務のコスト改善の要(かなめ)だろう。

通帳がなくなれば、銀行窓口の仕事はかなり減る。海外ではATMやインターネットバンキングで銀行店舗の閉鎖が増えているというニュースを耳にする。日本の銀行がATMやインターネットバンキングのメリットを最大に活用しようと考えていないのは、銀行の支店を残すことが大事と考えているからなのかもしれない。

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コメント (3)
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