来月早々「円満な相続を進めるポイント」というスピーチをするので、日本の相続(争族)問題のことをあれこれ考えていたら、ふと「争族問題とオレオレ詐欺の間には、ある日本固有の財産意識があるのではないか?」という気がしてきた。
日本固有の財産意識とは何か?というと、「親の財産の相当部分は相当子どもや孫に相続される」という意識である。その意識は当然ながら、民法が定める法定相続分に由来する。配偶者が亡くなった時、相続人がもう一人の相続人(生存配偶者)と子どもであれば、生存配偶者が半分、残り半分は子どもの頭数で均等配分するというのが、法定相続の考え方だ。
子供たちは、親の遺産に対して法定相続分は受け取れるという期待権を持っている。だから何らかの理由で「長男が遺産の分け前を沢山取ろうとした」などということが起きると相続争いが発生する訳だ。
オレオレ詐欺についていうと、「親や祖父母たちの中に、自分の財産は自分が死んだら、子どもや孫に行くのだから、子や孫が困っている今お金を出してやろう」という気持ちが親は祖父母の間にあるのだろうと私は推測している。
さて相続争いやオレオレ詐欺が米国など諸外国でもあるのかどうか調べてみた。まずオレオレ詐欺についてはほとんどニュースで見かけないので、まず日本固有の現象だと判断した。これは日本が未だ現金取引の多い国であることや高度に発展したATM・銀行送金システムが悪用されているという面もありそうだが。
相続争いについては、諸外国でも時々話題にはなっている。ただし争点は「遺言書が本人の自由意思で作成されたかどうか」という点が多いようで、分け前争いがトピックになることは少ないようだ。
訴訟社会の米国でも相続争いが活発化しているとは聞かない。その理由の理由は幾つか考えられる。一つは「遺言書」(正確にいうとその変形であるLiving Trust生前信託)が一般化していて、相続財産の配分を巡って相続人が争う余地がほとんどないからである。
また米国では一般的には(州によって異なるが)。子どもに法定相続権はなく、配偶者は共有財産として、亡くなった配偶者の財産は自動的に自分のものにすることができる、ということが争う余地を少なくしているのだろう。
さらに踏み込んで考えてみると、英米ではキリスト教の影響で「人の財産は一代限りで消滅し、その財を為した人はその財産について完全な支配権を持つ」という考え方があることに気がつく。だから事業で財を成した人は、慈善事業にポンと大金を寄付するのである。
良し悪しは別として、農耕社会が長かった日本では、田畑は重要な生産手段で、分けることはもっての外。子々孫々引き継がれるべきものという考え方が根本に残っているため、「子や孫は親や祖父母の財産をあてにし」「親や祖父母は子や孫が自分の財産をあてにしていると考える」のであろう。
そしてそれが相続争いとオレオレ詐欺の大きな背景になっている、というのが私の仮説である。そしてもし相続争いとオレオレ詐欺を減らそうと思うのであれば、財産を挟んだ世代間のもたれ合い意識を改善することに鍵があるのではないか?と考えている。やや論理は飛躍しているかもしれないが。