金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

トランプ、受託者責任ルールの見直しを指示。落ち着いて考えてみよう。

2017年02月04日 | ライフプランニングファイル

昨日トランプ大統領はリーマンショック後制定された金融規制改革法(ドッド・フランク法)の見直しを指示する大統領令に署名した。

その中には4月に施行が予定されいた「受託者責任ルール」の見直しも含まれている。

受託者責任ルールの導入延期更には見直し・廃止ということになると、消費者保護軽視か?トランプの独走か?などと日本ではセンセーショナルな議論が起きる可能性があるが、少し落ち着いて「受託者責任」とは何か?ということから考えておく必要がある。

受託者責任とは英米法の概念で英語ではFiduciary Duty。その中身は「顧客の利益を自己の利益より最優先させる」忠実義務と注意義務と言われている。

投資アドバイスを求める顧客と投資助言契約を結んだ投資顧問業者は受託者となるので、この責任を負う。

しかし顧客とそのような契約を結んでいない証券会社(ブローカー)は、露骨にいうと顧客の利益より自分の利益を優先してかまわない。つまり販売手数料の高い金融商品を販売しても、受託者責任を問われることはない。なぜなら「ブローカーは受託者でない」からだ。

もっとも米国にも日本にも顧客を保護するルールはある。それは「適合性原則」Suitability Standardと呼ばれるものだ。それは顧客の知識・経験・財産の状況などから判断して、金融商品取引契約に定める投資目的から逸脱した不適切な勧誘を行ってはならないというルールだ。

廃案になる可能性がある米労働省が提案している受託者責任法(仮訳)では「個人退職勘定IRAと金融商品取引契約を結んで、証券・保険・個人年金等の金融商品を斡旋するアドバイザーに忠実義務を課そう」というものだ。一見良さそうだが、ブローカー側からすると、新ルール対応のコストや広告費などの負担が発生する。特にコスト圧力は中小の投資アドバイザーやブローカーを圧迫する(先行する英国の例から見て)。

USATodayの記事によると、そのコストは年間24億ドルになると推定されている。

一方前政権の大統領経済諮問委員会は、利益相反行為でブローカーが退職した個人投資家から得た利益は年間170億ドルに達すると推定している(この数字は過大だ、という反論がある)。

なお受託者責任という概念は、米国の消費者の間でも混乱を引き起こしている可能性がある。法案がどうなれ顧客と投資助言契約等を結び「受託者」となった金融業者には忠実義務等の受託者責任は発生しているし、効力は持続する。

議論の焦点は広く退職者と取引する金融業者総てに「忠実義務を課すべきか?それとも適合性原則で対応するべきか?」ということだろう。

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話が米国のことでかつやや専門的なことになったので、自分たちの生活レベルで考えてみよう。

まずあなたや私が退職金など少しまとまったお金をもって、証券会社や銀行に相談にいっても、彼らは基本的に「一番あなたのためになると思われる商品を売らずに自分たちの利益が大きい商品を売る」ということである。ちゃんとした会社は「適合性原則」を守り、お年寄りに理解を越えたような複雑な金融商品を売ることはないと信じたいが・・・

もし本当に「あなたの利益を最優先したアドバイスを求めるのであれば、投資助言契約や投資顧問契約を結ぶ必要があるが、当然報酬を支払わなければならない」ということになる。その報酬を支払わない場合は、証券会社から証券会社の儲けが大きい商品を勧められる(もちろん買わなくても良いが)ということになるということだ。どこにも「ただ飯」はない。

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話はまったく変わるが、昨日来日中のマティス国防長官を「狂犬」と訳したのはマスコミの誤訳だと書いたところ、どうして誤訳ですか?というコメントが来ていた。

原語のmad dogには確かに「狂犬」という訳がある。しかし「好戦的」という好意的?な訳もある。そのいずれを採用するからは、マティスの経歴・思想から判断しないといけないので、狂犬は誤訳と判断した。

言葉は常に独り歩きする。今日のテーマの受託者責任という言葉も使われる文脈の中で考えていかないと誤解と混乱を招くと感じる次第だ。

コメント (2)
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