金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

ベビーブーマー豆柄論

2007年01月22日 | 株式

ウオール・ストリート・ジャーナル(22日)に「短期的には日本の高齢化は企業収益を拡大する」という小論文を発表していた。その主旨は給与の高い50代のサラリーマンが退職し、それをより数の少ないコストの安い若い社員、更には派遣等で代替させるので目先は企業収益を拡大するというものだ。

英語としてはFor some Japanese companies, there may be a silver lining to the nation's graying population.という言い方が洒落ている。Grayは灰色だが白髪混じりという意味があり、動詞としては高齢化という意味になる。Silver liningは銀色のライナー(裏地)ということだが、明るい兆しという成語だ。その語源はEvery cloud has a silver liningという詩の一節。つまり総ての雲は銀色の裏地を持っている=明るい光があるということだ。灰色と銀色の組み合わせが洒落ているからこのまま覚えておきたい言葉だ。

少し記事のポイントを見ておこう。

  • 第二次大戦後1947-49年に生まれたベビーブーマーが60歳になり、向う三年間毎年50万人ずつ退職者が発生する。エコノミスト達の見方はしかし少なくとも今後数年間は企業収益にはポジティブな影響を与えるというものだ。
  • NTTを例に取ると3,40年前固定電話システムを構築するために、新しい従業員を採用したが、固定電話の収入が減少するにつれNTTは採用人員を削減してきた。NTT東・西とそのアウトソース先を合わせて58歳の従業員は8千名近くいるが、35歳の従業員は約1千名で25歳の従業員は数百名である。

従業員を採用することをTake onという。Take onには「責任を持つ」とか「仕事を引き受ける」という意味がある。つまり人を採用するということは責任を持つということなのである。

  • マクアイヤ証券のアナリストは、ベビーブーマーの退職でNTT東の固定費は2008年3月期に06年の1兆5千億円から1千億円減少すると見積もっている。しかし。NTT東のビジネスは古いので収入も同じ時期に1千億円減少して2兆円に減る。この結果収益は06年の660億円から730億円に微増するに留まるというものだ。

余談だが今週末に私はNTTの固定電話から光電話に切り替えることにした。昨年秋から光ファイバーを導入していたが、IP電話に不具合が発生したというニュースがあったので暫らく切り替えを見合わせていたのだ。しかしもう良さそうなので切り替えるというもの。これで固定電話料金が月1千円弱安くなる。安くする方法はNTTが大々的に宣伝している光A(エース)というパッケージを使わないで月5百円の基本料金に自分が必要とするサービスだけを乗せるのがコツだろう。このようにしてNTTの収入は減っていくという見本だ。

  • NTTの株価は先週末614,000円だったが、マクアイヤ証券のアナリストは向う1年で490,000円にまで下落すると考えている。ベビーブーマーの退職は大変ポジティブなことだが、その他の問題を相殺するには十分ではないということだ。
  • この退職者によるコスト減少のロジックは他の業界にも適用できる。鉄鋼業ではベビーブーマーの人件費に占める割合は16%、金融業界は9%、電鉄等の運輸業界は14%である。ゴールドマンザックスは全体的に見て向う3年間(08,09,2010年)でベビーブーマーの退職による人件費減で企業収益は2%改善すると見積もっている。

賃金が減少するということは、長い眼で見ると国民消費の減少につながるが、少なくとも数年間の間は大量退職による影響はないだろうとエコノミスト達は言っている。それは大量退職者達は貯蓄と多額の退職金を持っているからだ。無論5年10年という期間でみると労働力不足は経済成長率の低下につながる。これを克服するためには生産性の改善、女性労働者の活用、移民等が必要だろうが、短期的には賃金の高い高齢者が若い労働力に替わることで企業収益が改善する。

株式投資の観点から見ると、大量退職者が出て企業収益が改善する会社を狙ってみるのも面白いだろう。しかしこれは中国の三国時代の魏の詩人曹植(そうち)の七歩の詩を思い出させる。

豆を煮るに豆柄を燃やす 豆は釜の中にあって泣く 本はこれ同根より生じ

相煮るなんぞはなはだ急なる

つまり自分が貰った退職金を自分達の世代が退職したことで業績が良くなる会社の株を買う・・・何だか自分の体を燃やして豆を煮ている様な構図ではないか?

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納豆騒動、笑っちゃうよね

2007年01月21日 | うんちく・小ネタ

昨日からマスコミを「納豆騒動」が賑わしている。1月7日関西テレビ作成の発掘!あるある大辞典で納豆にダイエット効果があると報道していたが、番組作成時にウソがあったということだ。

納豆は我々の会社の中でも話題になっていた。あるおじさんは「あるある大辞典」の番組で納豆は朝晩2回食べるのが良いと言っていたので、朝は食パンに納豆をはさんで食べることにしたらしい。コーヒーと納豆はあわんなぁなどと言いながら。

また昼飯に納豆が出る店に行くと「納豆はかき混ぜて20分待たないとダイエット効果がでない」と言う番組の話を真に受けて、納豆をご飯にかけず飯の終わり頃納豆だけ食べていたおじさんもいた。メタボリックシンドローム予備軍の中年のおじさん達は斯様に純情に「あるある」を信じ無惨に裏切られたのである。

しかし考えてみるとこのような話は納豆だけではない。去年の夏頃には杜仲茶が一時的なブームになり、店先から杜仲茶が消えたことがあった。半月もすると又元に戻ったが。いやマスコミや宣伝に踊らされるのは健康食品ばかりではない。「どこそこの株が儲かる」と聞けばそれに走り、「金(キン)が良いぞ」と聞けばそれに走る。そうして時々小さく儲けるが、長い目で見るとバタバタする程には儲からないか損をしている。現代は美味そうに見える危険な話がイッパイなのだ。

今から二千五百年程前お釈迦様は亡くなる時、弟子達が「これから誰を頼って生きていけば良いのですか」と訪ねられた時自灯明、法灯明とお答えになったそうだ。まず自らで考えそして真理の教えに照らしてみるということだ。

ちょっと考えてみれば一食品に過ぎない納豆にスーパーパワーなどある訳がない。勿論私も納豆が健康に良い食品であることは認めるがをれを食べるだけで、健康な体が作られると考える方がおかしい。健康な体とはもっとホリスティック(全体医学的)に作られるものだろう。嘘つき番組を作るテレビ局は論外だが、直ぐに真に受けてしまう我々もどこかおかしいのだろう。

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不二家の思い出

2007年01月20日 | うんちく・小ネタ

今新聞を開くと不二家批判の記事でイッパイだ。確かに消費期限切れの食材を使っていた不二家はいけないと思う。しかし敢えてこの非難の嵐の中で私の中には往年の不二家を懐かしむ気持ちが募ってくる。

京都に居た子供時代、我が家は豊かではなかったが、年に二、三回程度家族揃って河原町三条にあった不二家レストランに食事にいったものである。その時何を食べたのか今でははっきりとは覚えていないが・・・ハンバーグだとかシチューだとか・・・・そんなものだったろうか、でも食べ終わった後家族4人がとっても豊かな気持ちになって家路についたことを思い出す。不二家は私にとって生まれ育った家族の団欒の象徴であった。

不二家の一連の事件が発覚する少し前、昨年12月に家内と京都に帰った時河原町三条を通る機会があったが懐かしい不二家は回転寿司に替わっていた。ペコちゃんポコちゃんの不二家は子供の憧れであったが、少子化の波はあの懐かしい店まで閉店に追いやったのである。

不二家の一連の問題は由々しきことであるが、懐かしい思い出を持つものとしては何とか頑張って立ち直る道を探して欲しいものだと思う。それにしても私が不二家に連れて行って貰った昭和三十年代の日本には夢があったと思う。今の子供達が大人になった時はどういうレストランに行ったことを懐かしむのだろうか?

大声では言いにくいけれど、ペコちゃん、ポコちゃんガンバレ!あなた達の会社のエライサン達は悪いけれど、あなた達は悪くないのだから。

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サブプライムにおける外資の力には注目

2007年01月18日 | 金融

今日(1月18日)の日経新聞朝刊に「GEコンシューマー・ファイナンスやモルガンスタンレー証券が地方銀行が住宅ローンを貸せない人に融資をしている。」「モルガン・スタンレーはローン債権が一定額に達するとまとめて証券化、投資家にリスクを転嫁している」という記事が出ていた。この記事から読取れることとその背景を考えてみよう。

地方銀行が住宅ローンを貸せない人、つまり銀行の審査基準に満たない人はサブプライムSubprimeという。勤続年数が短いとか実際の年収を証明しにくい等の理由でサブプライムになる人も多い。もっともこれは借入人に差別感を与えるので米国では顧客向けにはNonprimeといういう言葉を使うか全く使わない。米国の住宅ローンの場合サブプライムのカテゴリーにはクリア・カットがあり、信用スコアが630未満であるが、日本の場合総ての金融機関を横断する信用スコアはないので、クリア・カットはない。

ところで米国の金融機関はどうして日本のサブプライムな顧客に融資を行なうことができるのだろうか?証券化してリスクを投資家に転嫁するから?答は大部分のNoである。米国の金融機関が日本でサブプライム融資が行なえる理由は、米国でサブプライムな顧客に住宅ローンを実行してノウハウつまり顧客属性とデフォルトに関するデータベースを蓄積して採算の取れる商品としたと考える方が正しいだろう。何故なら証券会社が住宅ローンを証券化して外販する場合でも、高格付を取るためリスクの高い劣後部分は自分で保有したり、初期のデフォルトに対しては買戻特約を付ける等かなりリスクを取るからだ。

私は実際に投資銀行が使っているサブプライムレンディングの信用リスク判断モデルを見た訳ではないが、日本の社会や経済がグローバル化(実は米国化にすぎないが)している中で米国モデルをかなり日本でも適用できるのではないか?と踏んでいる。(無論パラメーターの変換は必要だろうが)

米国の証券会社(モルガンスタンレー等の投資銀行)は、住宅ローン等の証券化で大きなコミッションを得ているので、商売のネタになる住宅ローンを組成する住宅ローン会社(モーゲージバンク)を傘下に抱えていることが多い。

今米国の投資銀行は住宅ローンの実物経済面つまり与信判断と金融技術面つまり証券化技術の組み合わせを世界に拡大しようとしいる。その一例はモルガンスタンレーが昨年12月にロシアでCitiMortgage Bankというモスクワのモーゲージバンクを買収したことである。彼等はロシアで住宅ローンが拡大することを見越して住宅ローンビジネスの垂直統合を目指すと明言している。

私はたまたまこの一例を眼にしたが、恐らくブラジルやメキシコなど新興市場国で大手投資銀行は住宅ローンビジネスの拡大に向けて血眼になっているに違いない。経済が発展してくると人々はより良い住宅に住みたいという夢を持つ。これがかってアメリカの経済を発展させ、国民の求心力を高めるアメリカン・ドリームであった。

今後発展途上国の人々もそれぞれの夢を見るだろう。ロシアン・ドリーム、メキシカン・ドリーム・・・という具合に。住宅ローンビジネスは巨大なビジネスになる可能性がある。いや可能性というより相当な確実性があると言って良いだろう。米国の投資銀行の戦略的発想の大きさには舌を巻く。

この様な時、日本の金融機関は全く蚊帳の外にある。「サブプライムなローンは出せない」と言っている銀行は、儲けの薄い優良顧客向けの住宅ローンをダンピング競争で取り合い、低採算と資金運用難に呻吟する。そしてやがて外資から証券化されたローンプールを高い値段(つまり薄いリターン)で買うことになるだろう。

誠に歯がゆい話ながらこのあたりが日本の金融機関と住宅ローンビジネスの姿だろう。

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円安循環と労働配分率

2007年01月16日 | 社会・経済

今日本は円安循環に陥っている。その状況は次のとおりだ。

1)企業はリストラを進め、企業収益は顕著に改善している。今年も全企業ベースで増収が見込まれるが、もしそうなると5年連続の増収である。

2)企業は中国や他のアジア勢との競争力を高めるために、又株価を高めるため配当増や自社株買取を行なっているが、労働への配分率は上昇していない。正確にいうと昨年3月期総労働者の現金賃金は1997年以来始めて上昇した(1%)。しかし昨年11月の政府統計によると1.1%ダウンしているので今年度は再び下降する見込みだ。

3)パートや派遣社員の割合は昨年6月-9月間で33.4%に達している。これは10年前の水準21%に比べ10%以上の上昇だ。

4)全体として賃金が上がらないため、消費が伸びない。消費が伸びないので物価が上昇しない。11月の消費者物価指数は前年比僅かに0.2%上昇しただけである。最近のエネルギー価格の下落を見ると向う数ヶ月で消費者物価指数が下落する可能性はかなり高い。

5)このような中日銀は今週の政策会議で短期金利を0.25%引き上げようとしている。しかし、物価の下落がはっきりするとこれ以上の金利引き上げは困難である。

6)低金利が続く中日本の消費者は海外の高金利を求めてグローバル・ソブリンのような投資信託の購入を続ける。賃金が上昇しないので将来の不安から多少余裕のある人は外債投資にいそしむことになる。これは円売・外貨買なので円安要因である。

7)円安は輸出企業に好ましいので、キャノンやトヨタ等世界優良企業がリードする日本財界はこの円安環境の持続を図る。

本来円安が続くと国内の通貨量が増えるのでインフレが起こるというのが経済学が教えるところだが、今のところそれが起きないなのは株・海外投資・不動産等が流動性を吸収しているからである。

ではこれで日本はハッピーなのだろうか?日本経済の半分以上の役割を担う個人消費が伸びなくて持続的な経済発展はあるのだろうか?また個人が豊かな生活を享受できないような経済成長に意味があるのだろうか?という問題が起きて当然だろう。

モノを買う人間の立場からいうと円高が好ましい。何故なら多くの商品を輸入に頼る日本では円高は物価の低下につながるからだ。一方海外に投資している立場からいうと円安の方が好ましい。

極端にいうと円安を持続させる政策というのは、持たざる消費者の負担で持てる消費者を益々裕福にする政策ということになる。

従ってこれを是正するなら、労働配分率を引き上げることが一番の政策である。

というようなことを考えていたら、今日の日経新聞朝刊に「三井住友銀行が14年振りに初任給を引き上げる」という記事が出ていた。3万1千円約18%の引き上げになるそうだ。これでも銀行の初任給は全産業平均を下回っているという。

先程の私の論調、つまり労働配分率を引き上げろという意見から見ると三井住友の判断は一見正しいかのように見えるが実は私はそうは思わない。理由は日本は労働配分率を改善しながら生産性や対外競争力を高めなければならないからだ。特に大手金融機関はM&Aなどの美味しいディールを外資系金融機関に軒並み奪われている。そしてその穴を個人向け投資信託や変額年金の販売で埋め合わせている勘定だ。

初任給を引き上げないと優秀な大卒社員が取れないという事情も分かるが三井住友クラスの金融機関に本当に必要なことは「一律の初任給」などという馬鹿な考え方を早くすてることだろう。できる社員に出来高払いで報酬を払って、せめて国内の案件位もう少し外資に取られないようにするということが必要である。

労働配分率を高めるということとベアのように一律に給与水準を上げるということは同一ではない。日本企業は今漸く給与制度を変革できるプラスのファンド(利益)を得ることが出来たがこれをどう配分するかが今後の競争力の優劣に直結する。

そして競争力が高まらないと国富が外資に流れ出ることになり結局円安になってしまうのである。こう考えると競争力を高める様な労働配分率の改善こそが今取るべき施策ということが分かってくる。

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