金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

オバマの住宅ローン救済策は成功するか?

2009年02月20日 | 社会・経済

オバマ大統領は2月18日に、住宅ローンの返済負担を緩和するため、金融安定化法案に基づく750億ドルを投入すると発表した。私はこの施策がどれ程有効に機能するかどうかが、米国経済が立ち直るかどうかの試金石であるとみている。そして米国経済に大きく依存する日本経済の立ち直りのベルウエザーであるとみている。投資の観点からいうと、今回の施策が成功すれば、米国株相場のターニング・ポイントになると考えている。

今回の施策が成功するかどうか?を分析する上で重要な点は「住宅価格がローン残高を下回っている状態~ネガティブ・エクイティという~の、債務者が返済条件が緩和されたなら、ローン返済を続けるかどうか」という点にかかっている。

米国はノン・リコース・ローンの発達した国であるが、住宅ローン契約には一般にノン・リコース条項はない(例外はあるかもしれないが)。しかしながら実務的には「住宅ローン債務不履行の結果、債権者に住宅を引き渡した債務者に対し、債権者は残債務を請求できない」といわれている(訴訟費用や手続が大変であると一般に説明されている)。これは一種の商慣行に基づく経済的インセンティブの問題と考えるべきで、ネガティブ・エクイティの状態に陥った米国の住宅ローン債務者が住宅を放棄して残債務の弁済を免れる行動に出ても、それを日本基準でモラルが低いなどと判断するべきではないと私は考えている。

ネガティブ・エクイティの状態に陥った債務者が住宅ローンの支払を続けるかどうかについては、米国の学者の意見は二分しているとエコノミスト誌はいう。

「払い続ける」派は、「ネガティブ・エクイティになっても、返済可能であればローンの支払を継続する。何故ならデフォルトは個人の信用レコードを傷つけるからだ」という。この学派が根拠としているのは1988年から93年にかけてマサチューセッツ州で住宅価格が23%下落した時、ネガティブ・エクイティになった債務者の内、債務不履行で競売された人は6.3%に過ぎないというものだ。

「払わずに住宅放棄」派は、「ネガティブ・エクイティになった場合、債務者はローン返済可能であっても、返済をやめて自宅を放棄する強い経済的動機を持っている」と主張する。この学派は過去3年間でネガティブ・エクイティになった人の2割は自宅を放棄していることを根拠としている。

私見を加えるならば、過去3年間にローン支払をやめて住宅を差し押さえられた債務者はサブプライム・ローンの借り手等より信用力が低くかつ収入を失った人が多いと考えられる。

住宅の差し押さえを抑制するには、ローン元本を削減する必要があるという声は多いようだ。しかしネガティブ・エクイティになった住宅ローンの元本を削減するような措置を取ると「返済能力がある人でも元本削減を求める」とか「住宅ローン債権への投資家が訴訟を起こす」といった問題が起きる。全米でネガティブ・エクイティ(つまり担保割れ)の総額は、5千億ドルにのぼるので、政府としても簡単に吸収できる金額ではない。以上のようなことを考えると、オバマ政権が「払い続ける」派の意見に沿って、住宅ローンの救済策を打ち出したのは妥当な判断だろうと私は考えている。

ブッシュ政権時に支払遅延のサブプライムローンの借り手24万人を救済する計画を立てたが、実際に救済できたのはたった4千人だった。最大9百万世帯を対象とする新プランに期待がかかるところだ。差し押さえ住宅の競売圧力が緩和しない限り、住宅市場の底値感が出てこないからだ。

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日露関係、隔たりか?進歩か?

2009年02月19日 | 国際・政治

昨日ニューヨーク在住の方から「洞察力の深い記事を拝見している」と過分のお言葉を頂戴した。私自身特段洞察力に優れているとは思わないが、2つのことに気を付けできるだけ幅広いものの見方をしようとは心掛けている。一つは出来事、特に外交的な出来事については日本の新聞記事だけでなく、できるだけ海外メディアの報道にも目を通すようにしていることだ。もう一つはある出来事を単独でとらえるのではなく、大きな流れの中で把握しようと考えていることだ。

さて18日に麻生首相とロシアのメドベージェフ大統領がサハリンで行った会議についてだが、日経新聞は「『領土』打開、日ロ隔たり」という見出しを掲げていた。ところがフィナンシャル・タイムズはRussia and Japan make progress on islandsというタイトルである。つまり「日ロは北方諸島問題で前進した」ということだ。

もっとも二つの新聞の記事の内容に大きな隔たりはない。両紙とも「両首脳は『新たな独創的で型にはまらないアプローチ』で具体化を急ぐ方針で合意した。しかし北方四島に関する主権の主張が縮まることはなかった」と書いている。問題は「合意」に力点を置くか?「主張の隔たり」に力点を置くか?という点だろう。

FTは「日本の政府筋はロシア側が経済問題や支持率低下で苦闘する麻生政権に助け舟を出すべく、新たな情報を示すかもしれないと期待をかけていた」と報じている。もし本当だとすると、日本の政府は相当甘ちゃんである。国と国との交渉事は力と利害の一致をベースとした駆け引きであり、大した見返りもなくロシア政府が北方領土問題で譲歩を行うはずがない。

一方日露関係も世界的な次元で見ると、改善するチャンスにあることは認識しておく必要があるだろう。それはオバマ政権成立後、米ロ関係の改善が進みつつあるからだ。

米国外交評議会(Council on Foreign Relations)のレポートからポイントを紹介しよう。

  • ブッシュ政権時、米国がポーランドとチェコのミサイル防衛基地建設に協力する発表したことからモスクワの緊張が高まった。
  • ロシアのメドベージェフ大統領はオバマが当選した直後、議会で「ポーランドとリトアニアの国境に近いカリニングラッドに短距離ミサイル・イスカンダルを配置するかもしれない」と演説した。短距離ミサイルはNATO側のミサイル防衛網で防御できないので、ポーランドやチェコに脅威となる。
  • ロシア側の発表はオバマ大統領を苦しい立場に追い込んだ。彼は選挙期間中ブッシュ政権のミサイル防衛支援を再考すると述べていたが、ロシアの短距離ミサイル配置を聞いて撤退すると、ロシアの圧力に屈したと思われるからだ。
  • このような状態であったから、米国のバイデン副大統領の「米露関係を再考する」というミュンヘン安全保障会議での発言はロシアに歓迎された。バイデンは「米国はイランのロケット攻撃に対抗する目的でミサイル防衛網を開発する」と延べた。
  • その後モスクワは「ミサイル防衛網を建設しないことに合意すれば、短距離ミサイルの配置を中止する」と述べた。オバマは「ロシアがイランの大陸弾道ミサイルと核爆弾の開発阻止に協力することを条件にミサイル防衛システムの開発を遅らせる」と示唆している。

紹介が長くなったが、今米国とロシアは関係改善に努め、アフガン問題の解決に臨もうとしている。このような大きな流れの中で、日露の首脳の間で「トップダウン」で問題を解決したいという思いが強くなっていることは事実と思われる。

だが具体的に領土問題を解決するのは容易なことではない。それは外交であるとともに内政の問題でもあるからだ。その意味では「領土打開、日ロ隔たり」とした日経新聞の方が現実的かもしれない。

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外交は信念かつパフォーマンス

2009年02月18日 | 国際・政治

昨日(2月17日)スポーツジムでランニングをしながら、午後7時のNHKニュースを見ていた。トップニュースが「中川財務相の辞任」であることは、昼間クイックで知っていた。だが改めて記者会見でのテイタラクを見ると情けなくなる。当初日本のマスコミは中川大臣のテイタラク振りを無視していたが、海外のメディアやインターネットが大きく取り上げたので慌てて記事にしたようだ。

ニュースはその後、米国のヒラリー・クリントン国務長官の日本における精力的な活動を報じていたので、中川氏のテイタラクが一層目立つことになった。

さてそのヒラリーだがまず最初の訪問国に日本を選ぶとともに、オバマ大統領が最初に会う外国のトップに麻生首相を選んだ。米国の同盟国として一番行き易いところを選んだというのがマスコミの解説だが、悪くいうと組し易いところを選んだともいえる。

ヒラリーやオバマ政権の真意については、もう少し深読みしておく必要がある。ヒラリーは大統領選挙時は「今世紀における米国の最も重要な二国間関係の相手は中国である」と述べている。だが彼女は最初の訪問国に日本を選んだ。勿論目先日本との関係を重視していることは間違いないが、タフな中国を相手にする前に日本をしっかり取り込んでおこうという考えであることは間違いない。

先日米国のCIA長官が「世界的な不況はテロや紛争の危険性を高めている」と議会証言を行っていた。米国政府は景気対策に巨額の予算を投入せざるを得ず、国防予算を抑制せざるを得ない。またブッシュ前政権の失政により、国際社会で悪化した評判を回復しなければならない。従って当面はイラクからの責任ある撤退、イランとの対話模索という穏健外交策を取るだろう。そしてアフガニスタン等で日本に金銭面だけでなく、マンパワー面での協力を求めてくる。

ところでヒラリーを見て思ったことは「外交は信念であると同時にパフォーマンスだ」ということだ。北朝鮮拉致被害者の話を聞き個人的な同情を示し(もっとも政治的な言質は与えないが)、明治神宮では日本の伝統に敬意を表す。麻生首相と会談した後に、ちゃっかり次に首相になる可能性の高いと思われる小澤党首にも会っておく。米国の国益を最大にするという強い信念を持ちながら、パフォーマンスを大事にして日本での人気を高めようとする。中々タフな相手である。

国際舞台でミソの付いた日本だが、麻生首相の訪米時には日本人として毅然としたところを示し、友好的でも守るべきは守り日本の国益を高めて欲しいものであるが日頃のパフォーマンスを見るとかなり心配である。せめて論語の一節でも読んでいって欲しいものだ。

国益を守る外交は古来「士」(高級官僚・政治家)のメルクマールであった。孔子は弟子の子貢が「士とは何ですか?」と質問した時「自分の行いに恥を知り、諸外国に使いして君命を辱めない人物は士というべきだ」と答えている。これは逆説的に考えると古代中国でも「四方に使いして国に恥をかかせるような政治家がかなりいた」ということなのかもしれないが。

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さらば、オーバースペックの時代

2009年02月17日 | 社会・経済

2月16日に内閣府が発表したGDPは年率換算で前年比マイナス12.7%だった。これは第一次石油危機以来の落ち込み。記録的なマイナス成長の原因は輸出の低迷で、その大きな原因はアメリカの消費の落ち込みだ。そしてその背景には「エネルギーの転換」と「オーバースペックの終了」という二つの潮流があると私は見ている。

エネルギーについては別に機会に私見を述べたいが、簡単にいうと私は2008年が世界の原油生産のピークだったことが、後世明らかになるのではないか?と考えている(これは以前から述べている)。最近ファイナンシャルタイムズが欧州第3位のエネルギーグループ・トータルのCEOの意見を紹介していた。それによると「世界は今後89百万バレル/日以上の原油を産出することはもうないだろう」とCEOは述べている(因みに3年前国際エネルギー機構は2025年までに130百万バレル/日の産出量に達すると予想しいてた)。

さて本題は「オーバースペックの時代が終わる」という方だ。今日の日経新聞に「割安家電『名』より『実』」という記事があった。話のメインは「節約指向の高まりで、世界的には有名で日本では無名だったブランド~例えば中国のハイアールや韓国のLGエレクトロニクス~の商品が良く売れている」ということだが、私はそれよりも「オーブン機能のない料理を温めるだけの電子レンジが売れている」と事実に興味を持った。記事によると電子レンジで最も売れているのはNeoveというブランドの7,980円の製品。販売店によると「今は安ければある程度機能を省いても気にしない人が増えている」と話している。

これは消費者がオーバー・スペックな商品を買わなくなりつつある・・・ということで私は「今」だけでなく、景気が回復してもこの傾向は続くだろうと考えている。

ところでオーバー・スペックな商品がないという点で、最も典型的なものは私は「登山道具」ではないか?と考えている。「ピンからキリ」とか「松竹梅」という言葉があるが、登山道具にはほとんど「ピンからキリ」や「松竹梅」がないのである。それはある時期のあるルートを登るには最適の道具というものが、限られるからだ。

登山靴という大カテゴリーで見ると価格帯は1.5万円から5,6万円位の幅はある。しかしこれは安い方は夏の低山用の仕様で、高い方は厳冬期用の仕様という仕様の差からくるものだ。厳冬期用の靴に限れば価格にそれ程差がある訳ではない。

これは何故か?と考えると登山道具は「機能」が総てだからだ。高い靴を履いたところで、楽に登ることができる訳ではない。むしろオーバースペックな道具を持つと重たくなり、自らを苦しめる結果となる。自分の技術と登る山に合わせて最も最適の機能を持った商品を選ぶ・・・というのが登山道具選択の大原則なのだ。そうすると各メーカーの価格はほぼ収斂していく(そうはいってもブランド信仰があり、海外メーカーが若干高いが)。

登山とは必要な荷物を背負って自分の手足で山に登るスポーツだが、人間の生活そのものを象徴していると私は考えている。食糧にしろ装備にしろ必要最小限に抑えないと重くなり、自らを苦しめるだけだ。

我々の生活は見直すと随分不要なものを「万一に備えて」とか「ステータスシンボルとして」とかの観点で揃えていることが多い。しかし本当はこれらのものは、自由で弾力性の高い生活を送る上では不要なものである。

不況期に人は精神生活を重視するという。私はその過程でかなりの人々がオーバースペックな商品を敬遠するよになると考えている。これは一時的な現象ではなく、大きな潮流と考えた方が良いのではないだろうか?

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そろばん学校さん、税の話もちゃんとして

2009年02月17日 | うんちく・小ネタ

昨日わが母校神戸大学から「六甲台講堂の再生のためのご寄付お願い」という手紙が来ていた。曰く、4億円を目標に募金活動を進めてきたところ、3億5千万円まで集まった。もう一息だから関東在住の卒業生に緊急募金をお願いしたいということだ。

六甲台講堂というのは、神戸大学のシンボル的建物で2003年に文化庁より「登録有形文化財」の指定を受けている。その建物が国際会議の実施も躊躇されるほど老朽化が進んでいるということだ。

この六甲台講堂、個人的な思い出は入学式でも卒業式でもなく、山岳部の新入生勧誘のデモンストレーションとして屋上からロープを使って懸垂下降したことだ。格好良く懸垂下降するには、体が壁に垂直(地面に平行)になるまで体を倒す必要がある。当時懸垂下降は色々な岩場で良く行っていたので、慣れたものだったが、山の中でやるよりビルの屋上でやる方が高度観があると感じたことを思い出す。

そんな思い出のある六甲台講堂の再生だから、僅かながら寄付をすることにした。

ところでこの寄付には免税措置がある。つまり寄付金が5千円を超える場合、超える金額を当該年度の所得から控除することができるというものだ。

他の大学の寄付広告をホームページで見ると「免税措置」の説明があるが、わが母校の「お願い」には免税措置の説明がなかった。所得控除なので、大した金額ではない・・・といえばそれまでだが・・・・。

でも「そろばん学校」なのだから、やっぱり税金のことはちゃんと説明しておいた方が良いでしょう。あるいはOBならその程度のことは知っている・・・ということかしらん。

それにしても国の予算は減るし、企業から大口寄付を集めるのも困難な環境で大学の運営も大変そうですね。

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