昨夜(5月10日)菅首相が原発プランを白紙に戻し一から検討すると述べたことは、WSJやニューヨーク・タイムズでも取り上げられていた。
タイムズは「菅首相のabout-face(180度回転)は、恐らく一部は福島原発事故以降高まっている(原発反対の)国民の意見に引っ張られている」と解説している。About-faceは軍隊用語で180度方向転換すること、日本では「回れ右」に相当する。
菅内閣は昨年「2030年までに14の原子炉を建設して、原発依存度を現在の30%から50%に引き上げる」というプランを発表していたから、まさに180度の方針転換だ。タイムズは「通常果てしない議論を繰り返し、メディアからその情報が漏れ、国民の合意が形成されていくという日本の意思決定プロセスから見ると異常だが、菅首相は内閣は福島原発問題に関してスローで優柔不断だという批判に対して、強いリーダーシップを示したのだろう」と分析している。
もしこれが本当ならば、菅首相のやり方は相当無茶苦茶だ。ギリシアに起源を持つ民主主義は「合意形成と緊急時における執政官への権限委譲」という二つのメカニズムで、民主主義の欠陥である意思決定の遅れを克服している。古代ローマでは、外敵の侵入や疫病の流行に際して、一人のディクタトル独裁官に半年に限り強力な権限を与えていた。
福島原発事故が起きた時はまさに緊急事態であり、総理が独裁的権限を振るうべきケースであった。
ところが今後原発を作るか止めるかという話にはそれ程の緊急性はない。エネルギー問題、災害対策等の専門家が英知を集めて議論するべき問題である。少なくとも首相が人気取りのためにアタフタと意思決定するべき問題ではない。
日本の原発開発ストップは、原発プラントの輸出にも決定的な悪影響を及ぼす。菅首相の場当たり的な行動は企業活動の上では「先が読めない」というリスクを高めている。About-faceに悪意がこめられているかどうかは知らないが、180度態度転換ということが海外で喧伝されると誰も信じなくなるのではないだろうか?