私は20年位前にパチンコは止めたので、最近のゲーム機などについては全く疎い。ただし仕事でパチンコ業界に多少のかかわりがあるので、関連記事などには眼を通している。さて今週のエコノミスト誌(7月27日発刊)に「ゲームのルール」~当局はパチンコビジネスのクリーンアップを試みている~という記事が出ていた。私の記憶ではパチンコがエコノミスト誌に登場するのは初めてのことだ。まず記事のポイントを見てみよう。
- 今月セガ・サミーの新しいゲーム機(北斗の拳)が登場した時、パチンコ店はお客で混みあった。パチンコは日本で好まれる娯楽の一つの地位に留まっているものの、パチンコ店は余り良くないと考えられている。遊戯者の数はこの10年で29百万人から18百万人に半減した。また業界は法的には半分グレーなエリアで営業を行なっている。
- 業界を監督する警察庁によれば、日本人は全体で年間約30兆円をパチンコと新参の弟分のパチスロに消費している。これは概ねヘルスケアに消費する金額に等しい。消費者の借金の半分はパチンコで遊ぶための借入であると考えられている。
- パチスロット「北斗の拳」の凄い人気はパチンコ業界の今後の幾つかのトレンドを説明している。一つは伝統的なパチンコ台からパチスロへのシフトである。現在典型的なパチンコ店では約3分の2がパチスロになっている。パチスロは業界の規制が緩和され、台メーカーの自由度が高まった時から活気付いてきた。パチスロの特徴はギャンブル性が高いことである。なおウイキペディアからパチスロの特徴を引用すると「パチンコとの遊戯性の違いは、『ある程度の技術介入』要素が明確であり、出玉に左右されやすい点にある。つまり打ち手のレベルやテクニックによって目に見えて差が開きやすい」ということだ。
- パチスロはパチンコ業界の衰退を食い止めている反面、パチンコ店が厳格な日本のギャンブル規正法を回避しているのではないかという懸念も高まっている。日本ではカジノ型のギャンブルは違法であり、パチンコ店は勝った客に現金を渡すことはできない。従って遊戯客は景品を景品交換所で現金に換えている。警察はこの様な取引を止める手立てを打てなかったので、2004年6月に導入された新しい規制でパチスロの大当たりを80%削減した。しかしパチンコとパチスロの台のライセンスは3年毎に更改されるので、射幸性の高いパチスロ台は2007年6月まで生き残ることになる。そしてその後パチスロ台はギャンブル性の高いものからより娯楽性の高いものに戻ることが期待される。
- 締め付けには他の理由もある。パチスロは時々違法に改造されている。また毎夏12人程度の赤ん坊が、パチンコをする両親のため車に置き去りにされ死んでいる。また多くのパチンコ店は在日コリアンにより経営され、その内のあるものは税金を回避し、その金を北朝鮮に送金している。
- 新しい厳密なルールが業界を助けるのか傷つけるのかははっきりしない。大当たりの金額を制限することでパチスロの遊戯代を安くし、イメージを改善することができるだろう。しかし人々の足を遠のかせるかもしれない。そしてもし業界が低下すれば、それにともなって政府の税収も下がる。日本の巨大財政赤字からすれば、再考を迫るかもしれない。自民党の小委員会(訳注:政務調査会観光特別委員会カジノ・エンターテイメント検討小委員会を指す)でギャンブルの合法化に向けて検討がなされているが、まだ極初期の段階である。国会議員達はギャンブルを抑制するより税収を維持する方が重要かどうか未だ結論に至っていない。
さてパチンコと消費者金融ということを考えてみよう。昨日の新聞によれば消費者金融の利用者は1,399万人で総貸出額は14兆1,965億円、一人当たり借入額は101万円である。なお延滞者は267万人いるということだ。エコノミスト誌の記事によれば消費者の借入の半分はパチンコ遊戯資金ということである。もっとも消費者の借入はConsumer Debtと書かれており、それが銀行等を含む借入なのか消費者金融からの借入なのかはっきりしない。ただ直感的に消費者金融の占めるウエイトが相当高いことは間違いない。(パチンコ店と消費者金融の店が近くにあるケースは多い)
今消費者金融からの借入金14兆円の半分7兆円がパチンコに使われているとしよう。一方日本人はパチンコに年間30兆円使っているが、仮に掛け金の戻り率を8割としてみよう。30兆円使って24兆円のリターンを得ている訳だから、パチンコ・パチスロの遊戯客はトータルで年間6兆円損をしている計算になる。その6兆円はパチンコ店に入っている訳だ。この金額は概ね消費者金融の借入額の半分であるから、マクロ的に見るとパチンコ・パチスロの遊戯客は負け分を消費者金融から借りているという構造になる。更に言えばパチンコ等のギャンブルが習慣化した人間が債務不履行に陥る可能性が高く、その分はギャンブルをしない人が高い金利を払うという形で負担していることになる。ということはパチンコ店が払う税金や北朝鮮への送金は実はパチンコをしない消費者金融の借り手が相当部分負担していることになる。
さて現在消費者金融の上限金利を見直す等の動きが出ているが、こうなると一般的には債務不履行の可能性の高い人は借入がより困難になる。つまりギャンブルで債務過多に陥っている人は借入が困難になるはずだ。ただしこれらの人はヤミ金融に走る可能性が指摘されているのも周知の事実だ。
以上のようなことを考え合わせると、私見では消費者金融の低利化とパチスロのギャンブル性の削減は同時並行的に推進するべき課題ではないか?ということになる。本当に一時的な生活苦から消費者金融に頼る必要がある人が、ギャンブラーの尻拭いをする様な構造になっていることに疑問を覚えるものである。