今日(3月2日)の日経新聞は「政府が3年間で3兆円のIT投資を行って40-50万人の雇用を創出する」という記事を一面に掲載していた。記事によると目玉の一つは個人の健康情報を各地の医療機関で共有する「日本健康情報スーパーハイウエイ構想」で医療機関同士を光ファイバーでつなぎ画像診断情報などを瞬時にやり取りすることで地域医療や救急医療の改善を図るということだ。
この記事をみて私が思ったことは「ハード投資倒れにならなければ良いが・・・」ということである。というのは日本のIT投資(最近はICT投資 Information and Communication Technologyという言葉が一般的なので以下ICT投資という)の問題は「ハード偏重」だからだ。
総務省が平成20年3月に発表した「日本のICTインフラに関する国際比較評価」によると、日本は主要23カ国の中で総合ランク1位だ。高い得点を取っているのは「光ファイバー比率」「ブロードバンド速度」「ブロードバンド料金」など高速通信分野で、この結果総合点で世界1位になっている。
だが別の切り口から見ると日本は技術インフラの中進国に過ぎない。スイスの国際経営開発研究所IMDによると日本の技術インフラは55カ国中22位に過ぎない。総務省も「ICT利活用の国際比較」というレポートの中で「日本のレセプト(診療報酬請求)のオンライン化率は1.4%(例えば韓国は91%)」と問題点を指摘している。簡単にいうと高速通信網などのインフラを整えてきたが、その利活用がお粗末というのが、日本のITC投資の問題点なのである。
電子的な医療情報を活用しようという動きは米国にもある。オバマ政権は電子的医療情報の活用に190億ドル(1.8兆円)の予算を使う予定だ。
ニューヨーク・タイムズによると、大手の医療グループ(民間健康保険会社が加入者をグループ化しているなど)では、既に糖尿病や心臓病などのような、慢性病について電子的医療データを活用して治療効果をあげているが、これはまだ少数派で全体の17%に過ぎない。これについてMITのある教授は「(電子データが活用されないのは)技術の問題ではなく、医師側に活用しようというインセンティブが働かないからだ」と述べている。これに対して政府は電子的な診断データを有効に利用する医師に対して4万ドル以上の報奨金を支払う計画だ。また同紙は小規模の医療機関に対し、電子的な診断データの利用をサポートする「地域健康ITサポートセンター」の設立がキーになるという意見を紹介している。
高齢化と医療費の高騰が進む日本で、電子的な医療データを活用して医療費を抑制しながら、より多くの人が健康な老後を送ることができるような施策に私は賛成である。しかし取組姿勢や方法論を間違うと無駄なICT投資に終わるリスクがある。この点について幾つか具体的な提言を行いたい。
- 医療情報の電子化の第一の目的はITC分野の雇用創造ではなく、医療費を抑制しながらより多くの人が健康な生活を送ることと医師の負担を軽減するツールと位置付けること
- 普及度の高い携帯電話をプラットフォームとして、患者(および潜在的な患者)が自分で「血圧・血糖値」などの基礎データを入力し、ホームドクターとリアルタイムで情報を共有するようなものであること
- コールセンターで24時間健康に対する不安(例えば大きな手術後の痛みや精神的不安に対して)が相談できるようなシステムを作ること
- 社会保障番号等国民一人ひとりを特定するユニーク番号制度を導入して、レセプトの電子化や納税の電子化(医療費控除の簡便化)までつなげること
- 携帯電話等に「終末医療に関する本人意思(できれば担当医とのコンサルテーションを踏まえて)」に保存し、医療機関が本人意思に従った週末医療の提供を行えるようにすること
これは一例だが、このような利用目的・方法を明確にしないで、医療機関を光ファイバーで結んだところで「ハード倒れ」になるのではないか?というのが、私の懸念である。如何なものだろうか?