財務省が今日(9日)発表した1月の経常収支は1,728億円の赤字だった。赤字は13年振りとのこと。財務省によると世界同時不況で輸出が減った上、諸外国からの金利や配当収入が低下したことが赤字の原因だ。では世界景気が回復して輸出が増えると経常収支は黒字になるのだろうか?ことはそう単純ではないかもしれない。
昔マクロ経済学で学んだことで、所得・消費の恒等式というのがあった。所得=消費+投資である。この式を展開すると(投資-貯蓄)+(政府支出-租税)+経常収支=ゼロである。
日本はよく諸外国から「貯蓄過剰なので経常黒字を溜め込んでいる」と批判されてきた。仮に投資と(政府支出-租税)を一定とすると、貯蓄が増えると経常収支が増え、貯蓄が減ると経常収支が減ることが上記の式から分かる。たしかに日本は80年代90年代は貯蓄率が高かった。しかし近年は貯蓄率は低下し、最近では米国を下回るといわれている。退職者は貯蓄を取崩して生計費に回すので、人口の高齢化が進むと国としての貯蓄率は低下する。
個人の貯蓄の減少状況から見ると、経常収支はもっと前に赤字化してもおかしくなかったが、企業が投資を減らし国も支出を抑えてきたので経常収支の黒字が持続した訳だ。だが今後退職者が増えていくと、日本の貯蓄は減少するので経常収支は赤字基調になるかもしれない。
経常収支が赤字といえば米国は投資過剰・貯蓄過小(なお最近は節約に回って日本を上回る貯蓄振りだ!)で、巨額の経常赤字を出していた。その赤字を中国や日本が米国国債を購入するという形でファイナンスしていた。米国の経済学者(ポール・クルーグマンなど)の中には、アジア諸国の貯蓄過剰と米国の経常赤字というアンバランスが今回の金融危機の原因だと主張する人がいる。彼等から見ると日本の経常黒字から赤字国に転落することは歓迎するべきことだろう。
もっともエコノミスト誌は「日本の経常黒字の減少が、輸出不振の結果でなく、国内消費の拡大の結果ならよいのだが」と嫌味を述べている。日本は英米の政治家や経済学者達が期待した内需拡大による経常黒字の削減を経験しないまま、ずるずると経常赤字化してしまうかもしれない。若い時老後に豊かな暮らしを送ろうと思って、消費を削って貯蓄に励んだのに、いざお金を使おうと思った時には、体が自由に動かない・・・・例えるならばこんなことだろうか?
なお経常収支のアンバランスが、金融危機の原因だとする意見に対してIMFは「監督官庁の監督不足と市場規律の欠如こそが原因」と反論していることを付け加えておこう。