金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

マッチ・ポンプか救世主か?

2009年03月04日 | 社会・経済

マッチ・ポンプというのは「自分で放火のような悪事を仕掛けておいて、後で火を消すような善行を行い名声や利益を得る」行為を指す言葉で1966年の「黒い霧事件」で初めて使われた。Mach pumpというと英語に見えるが完全な和製英語だ。

このマッチ・ポンプのような話がアメリカで起きている。過激なサブプライム・ローンの提供とその後の破綻で有名になったカントリーワイドの元社長達が会社を設立し問題住宅ローンをディープ・ディスカウント(額面の何分の一という低価格!)で購入し大きな利益を得ているという話がニューヨーク・タイムズに出ていた。

新聞は彼等の行為について賛否両論を載せている。批判派の意見は「自分で放火しておいて焦げた廃材を安く買い集め売却して利益を得るような行為だ」というものだ。もしマッチ・ポンプという諺がアメリカにあれば間違いなくマッチ・ポンプと言っただろう。

肯定派は連邦銀行からサブプライム・ローンの債務者まで色々だ。連邦銀行のある職員は「問題債権の交渉では経験豊富なカントリーワイドの役職員と一緒に仕事をすることは重要なことだ」と述べている。この会社の最大のディールは連邦預金保険機構との間で行われた額面5億6千万ドルの取引だ。この債権プールの実質的な買取価格は額面の38%ということだ。

カントリーワイドのOBが作った会社の名前は略称PennyMac、日本語でいうと一円マックだ。フルネームはPrivate Mortgage Acceptance Companyとものものしいが、1円2円(額面100円に対して)という安い価格で公的機関から住宅ローンを買うということでこのような名前をつけたのだろうか?だとした随分人を食った話である。

PennyMacは買い取った遅延債権について、住宅ローンの債務者と返済再開交渉を行っている。その時の切り札は金利の引下げだ。新聞には7.25%の金利を3%に下げるという例が出ていた。こうすると月々の支払が半分近くになるので、遅延していた債務者も返済を再開できる場合がある(もっとも再開しないと住宅を取り上げて競売する)。だから債務者の中には「PennyMacの経営者がカントリーワイドの幹部だって気にしない。住宅ローンの返済が軽減されれば良いのだもの」という人もいる訳だ。なおPennyMacは安い価格で住宅ローンを買っているので、これでも十分利益がでる。彼等のターゲットは年20%の利益というから貪欲さは相変わらずである。

PennyMacがどこから資金調達を行っているかというと、BlackRockとかHighfield Capitalなどのような著名なヘッジファンドが資金をつけている。

米国の庶民の金は税金というパイプを通って政府(例えば預金保険機構)に流れ、その金はマッチ・ポンプを経由してヘッジファンドに還流し最後はお金持ちに流れていく・・・・・。目端の利いた連中は早くも巨額の政府資金を追いかけ始めている。

この政府とPennyMacの関係、江戸時代に前科者を「岡っ引き」として奉行所の与力・同心が手先に使った話を思い出させる。岡っ引きは改心していることが前提だが、カントリーワイドのOB連中は改心しているのだろうか?

何せカントリーワイドというのは、貪欲の塊りで悪名高く、買収したバンカメが買収後直ちに看板を下ろさせた位だから。

もっとも彼等が改心していようがいまいが対岸の話である。むしろ我々が心に留めておくべきことは、底なし沼のように見えた米国住宅市場に杭が打ち込まれ始めたということだろう。このような杭が打ち込まれることで市場の底は固まっていくのだ。

かって私が経験した1990年代初めの商業用不動産不況は「墓場のダンサー」と呼ばれたゼルの底値買いから反発を始めた。カントリーワイドのOB達が成功すると「第二のゼル」と呼ばれるのだろうか?あるいは「火事場の屑拾い」とでも呼ばれるのだろうか?対岸の話ながら野次馬的興味のあるところだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀行国有化の意味

2009年03月04日 | 金融

米国で「銀行の国有化」を巡って賛成・反対両論が対立している。賛成派は共和党上院議員のグラハム氏、レーガン政権時の財務長官だったベーカー氏、グリーン・スパーン前連銀議長等で、反対派はバーナンキ連銀議長や民主党政権だ。

この問題についてファイナンシャル・タイムズのマーティン・ウルフ氏はざくっと問題の本質を切り出している。曰く「ファニーメイ、フレディマック、AIGやシティGは既に国有化されているじゃないか?国有化賛成・反対というのは定義の話に過ぎない。本質的な問題は~少なくとも大きな二つの問題は~、誰が損失を負担するのか?ということと誰が銀行をリストラするのか?という問題だ」

誰が銀行をリストラするのか?という問題から考えてみよう。今回の金融危機以前の大手米銀が国有化された例は1984年のコンチネンタル・イリノイまで遡る。同行は全米7位の銀行だったが、それでもリストラに10年かかった。シティGやバンカメ(恐らく国有化されるだろう)の規模や国際的なオペレーション網を考えると、リストラが極めて大変な作業であることは想像がつく。

誰が損失を負担するか?という問題の前に「米銀の信用損失がどれ位か?」という問題を考えよう。その最終的な答は現在進行中の「ストレス・テスト」の結果待ちだが、FTは3つの「推測」を紹介している。共通しているのは08年から10年の間の資本増強額で1兆1900億ドルだ。その内訳は既に投入された資本5,100億ドル+2年間の業務利益5,000億ドル+TARP(不良資産買取プログラム)からの資金投入2,000億ドル+その他700億ドル-配当900億ドルだ。

損失の推測は評価者によって異なる。一番楽観的な推測を行っているのはIMFで9000億ドル、このシナリオだと2,900億ドルの資本余剰になる。一番悲観的な推測を行っているのはルンビニ教授の1兆8000億ドル、このシナリオだと6,100億ドルの資本不足だ。中間はゴールドマン・ザックスの予想で1兆ドル。このシナリオだと1,900億ドルの資本余剰だ。

ストレス・テストの結果資本増強が必要だと判断された銀行は、転換権付優先株を政府に引き受けて貰い、半年間で民間からの増資を探す。増資ができない場合は政府の優先株が普通株に変る仕組だ。

一般論として企業が破綻した場合最初に損失を負担するのは、普通株主でその次が優先株や劣後債の保有者で最後に上位債権者(貸出銀行や普通社債の投資家)で、国民全体が損失を負担することはない。

だが米国の投資適格社債の1/4は銀行が発行した社債であり、銀行債がデフォルトになると影響は年金基金や保険会社にまでおよび影響は甚大だ。だから政府が破綻防止のために、資本増強を行うのである。しかし政府が投入する資金は税金という国民の資金であり、その負担は広く全国民が負担することになる。救済した銀行がリストラ後、キャリング・コストを上回る高値で民間に売却されると国民の負担は解消されるがその保証はない。

社会主義が「生産手段の共有化により国民の平等をはかる」制度とするならば、銀行の国有化により損失(理論上アップサイドもあるが)を国民が平等に負担する仕組は本質的に「社会主義的」なのである。FTはLoss-socalisationという言葉で本質をついている。

ところでここから先は私の個人的感想だが、過去・現在の「社会主義国」で、所得の平等が達成されたことはない。何故なら利権を持つ人達が甘い汁を吸おうとするからである。一方組織の中には創造的な仕事をしてもしなくてもペイは同じなどという悪平等がはびこり官僚主義が跋扈する。今回の金融機関の国有化がこれらの弊害から絶縁されている保証はない。例えば住宅金融会社は政治家の人気取り政策の道具にされる可能性がある(実際政策の道具にされたから破綻したとも言えるのだが)。

金融機関の国有化に反対する人の論拠の一つはこの辺りにあるのだが、字面は別として国有化というルビコン川は渡ってしまったのである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米国型社会主義の到来?

2009年03月04日 | 社会・経済

社会主義とは何か?「社会主義とは生産手段の共有により、国民の平等を目指す理念である」というのが最大公約数的解釈だろう。もっとも大部分の社会主義国家において「国民の平等」が実現されたことはないが。今アメリカ人が「国民の平等」を第一の社会目標においているとは思わないが、生産手段なかんずく金融機能についてはかなりの部分の国有化が進んでいる。

昨日世界最大の保険会社A.I.G.が、617億ドルという米国企業史上最大の四半期損失を発表した。この内259億ドルは住宅ローン担保証券とクレジット・デフォルト・スワップに関するものだ。米国政府はA.I.G.に300億ドルの追加資金投入することを合意した。これは4回目の救済で既に米国政府はA.I.G.の80%近い株式を保有している。

米国政府はファニーメイとフレディマックに既に4000億ドルの資金を投入して実質的に国有化している。ニューヨーク・タイムズは、議員連中と両住宅金融会社会社の幹部連中が、両社が再び完全に民営化されることはないだろうと認めだしたと報じている。それは再び民営化して国からの借金を返済するには100年!かかるからだという。

米国政府はシティGへの優先株出資を普通株式に転換して、4割の議決権を握る最大の株主になった。メリルを買収したことで財務体質が悪化したバンカメも同様の道を歩む可能性が高い。

このように見てくると米国政府は、保険会社・住宅金融会社・大手商業銀行の最大の株主である。金融セクターで政府が大株主になっていないのは、投資信託やヘッジファンドなどの資産運用会社とリテイル向けの証券・保険業務位かもしれない。

このことはどのような意味を持つのだろうか?A.I.G.の巨額損失はクレジット・デリバティブなど信用保険・保証に係わるものだ。A.I.G.の格付が下がると、同社はスワップのカウンターパーティである民間金融機関等から巨額の担保差し入れを求められる。それを防ぐために政府が追加出資を行って、ムーディズなどの格付機関の格下を食い止めた訳だ。というのはA.I.G.が破綻して、保証が無価値になると保証を受けていた金融機関が多額の引当を積む必要に迫られ、その金融機関の破綻につながる危険性があるからだ。

結果的には今米国政府は、A.I.G.の裏保証人になって、同社が引き受けた世界中のあらゆる信用リスクを引き受けたことになる。信用リスクの米国政府への集中・・・・ということである。

しかし政府が金融機関の経営権を握ったから、マネジメントがうまく行くという保証はない。ファニーメイはMoffett氏をCEOに採用したが、彼は半年弱で辞めてしまった。給料が低いことと、お役人の考えを先読みするのに疲れたという理由だそうだ。社員の中にも低い給料に不満をもって辞める連中がいる。

社会主義にはソビエト型社会主義など様々な社会主義がある。政府の金融機関監督行政が長引き、再民営化が遅れると、後世経済学者や歴史家はこれからの時代を「米国型社会主義の時代」と呼ぶのだろうか?あるいはファニーメイが民営化された1968年まで時計の針が40年戻ったというのだろうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする