金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

ナノは世界で売れるか?

2009年03月24日 | うんちく・小ネタ

インドのタタ自動車が6年前から計画してた格安小型自動車「ナノ」が4月から販売されるというニュースは内外の新聞の紙面を賑わせた。このことは「ナノ」に対する興味が単に「インドのローカルな自動車」というだけでなく、このような格安自動車の将来市場に内外の関係者や消費者が高い関心を持っていることの現われだろう。

もっともタタ自動車がナノの生産をすんなりと商業ベースに乗せられるかどうかについてはかなり疑問がある。当初計画では年間25万台のナノを生産する予定だったが、現在のPantnagar(インド北部)の工場では、月産4,5千台ペースだ。用地確保に手間取っている上、タタ自動車が英国のランドローバー社の買収などで多額の借金を背負い込み資金繰りにせわしないからだ。またナノがインドの安全基準を満たしていても、より安全基準や排ガス規制が厳しい欧州や米国で売れるモデルが続くかどうかは分からない。

タタ自動車は試乗体験を公表することを最近まで禁止していた。ようやく解禁されたある辛口のコメントをニューヨーク・タイムズは紹介していた。曰く「ナノはゴルフカートでなくてやっぱり自動車だったよ。インドの街中を走る限りはね。もっとも都市を結ぶ高速道路ではどうだか分からないが。」

21万円、排気量624CCの車はこんなものだろう。しかし一昨年までならスクーターの買換え商品程度の話題にしかならなかったかもしれない格安自動車が話題になるということは、世界的な不況・ガソリン価格に対する不安・環境問題のプレッシャーが影響力を高めているということだ。

ナノが世界で売れる車になるかどうか分からない。だがそれに続く車例えばルノー・日産がインドのバジャジ自動車と組んで作る格安車などにはインド以外の市場がありそうだ。何故なら先進国でも自動車に求める価値が変っているからだ。つまり車におけるオーバー・スペックの時代が転換期にさしかかったのだ。

高級車が成功のステータスシンボルでそれを3,4年で買い換える時代は終わったのだろう。日本ではカーシェアリングが話題になっているが、これも同じ文脈で考えるべき話だ。また健康のためにクロスバイクで通勤する人も増えている。クロスバイクの中には20万円を超えるものもザラだから、その内に自動車より高い自転車で通勤することが、健康で環境に優しい人のステータス・シンボルになるかもしれない。まあ、これは半分冗談だが。

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2月の米・既存住宅販売をどう読む?

2009年03月24日 | 金融

米国の2月の既存住宅販売は1月に5%下落した後、市場の予想を超えて5.1%増加した。既存住宅について日本の大方のマスコミは「中古住宅」という表現を使っているが、私は敢えて「既存住宅」という言い方に固執する。これには二つの理由がある。まず原語はExisting homesであり、Used homesではないことだ。例えば中古自動車は英語でもUsed carである。しかし住宅についてはUsedといわない。いわない理由は住宅の価値は以前に人が住んでいようといまいと変らないからである。このことは美術品に中古という概念がないのと同じと考えてよいだろう。二つ目の理由は私は日本も長期間居住できる住宅を建設することで、省資源化や若い世代の居住費負担を減らす時代に来ていると考えるからだ。そのためにはまず言葉ありきで、中古住宅を既存住宅と呼びかえるべきだと考えているからだ。

前置きが長くなったが、ニューヨーク・タイムズは2月の好調な既存住宅販売に強気・弱気二つの見方を紹介している。強気の方はMKMパートナーのチーフエコノミストは「我々は新築・既存住宅販売双方の底を見る時が近い」と顧客にメッセージを送ったという話。

弱気の方は2月にセールスが伸びたのは、住宅価格の下落が激しかった西部で住宅価格が余り下落していない北東部地区では販売は伸びていないという事実だ。

西部では住宅価格は昨年2月に較べて30%以上下落しているが、北東部では住宅価格は4.8%しか下落していない。北東部の既存住宅販売は昨年に較べて15%落ちている。要は西部では住宅が底値に近づいたので買い手が動きだしたということだ。

住宅価格がどれ位まで下落すると購入意欲が出るかということについて、以前面白い話を読んだことがある。そもそも米国で一般大衆が住宅を購入できるようになってきたのは、大恐慌以降の話でそれまでは賃貸をしていた。その時の賃料の目処が1週間の賃金相当(米国ではワーカークラスの給料は月給ではなく、週給ベースで支払われることが多い)ということ。つまり収入の25%を住居費に当てるというのが一つの目処だったというのだ。もしこの目処を消費者が守っていたなら、今回の住宅バブルは発生しなかっただろう。

オバマ政権の住宅不況救済プランの一つに、住宅ローンをリストラして住宅ローンの返済金額を月収の31%まで下げるというものがある。これらのことを考えると年収の3割程度の住宅ローン負担で住宅が買えるまで価格が下落すると住宅購入意欲が高まると見ておいて良いだろう。

住宅ローン負担を決定する要素は、住宅価格だけではなく「収入」と「ローン金利」である。「収入」についてはまだしばらく経済の悪化が予想されるので楽観はできない。長期金利については連銀が先週1兆ドルの国債と住宅ローン担保債券を購入すると発表したことから急落している。30年の固定住宅ローン金利は1年前の5.62%から5.08%に下落している。またニューヨーク・タイムズによると多くの銀行が4.75%の金利を提示しているということだ。

以上のように見てくると2月の既存住宅販売の数字をもって市況好転の兆しとするのはいささか気が早いだろう。だが連銀の大量の流動性供給や政府・民間共同の「不良債権買取プログラム」が機能しだして金融安定化が進むと住宅市場の底が見えてくるだろう。問題は「政策の持続性」である。A.I.G.ボーナス問題は幹部が自主的に返還することで収拾するだろうと私は見ているが、まだまだ色々な火種がありそうなだけに、政策の持続性は気になるところだ。

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