インドのタタ自動車が6年前から計画してた格安小型自動車「ナノ」が4月から販売されるというニュースは内外の新聞の紙面を賑わせた。このことは「ナノ」に対する興味が単に「インドのローカルな自動車」というだけでなく、このような格安自動車の将来市場に内外の関係者や消費者が高い関心を持っていることの現われだろう。
もっともタタ自動車がナノの生産をすんなりと商業ベースに乗せられるかどうかについてはかなり疑問がある。当初計画では年間25万台のナノを生産する予定だったが、現在のPantnagar(インド北部)の工場では、月産4,5千台ペースだ。用地確保に手間取っている上、タタ自動車が英国のランドローバー社の買収などで多額の借金を背負い込み資金繰りにせわしないからだ。またナノがインドの安全基準を満たしていても、より安全基準や排ガス規制が厳しい欧州や米国で売れるモデルが続くかどうかは分からない。
タタ自動車は試乗体験を公表することを最近まで禁止していた。ようやく解禁されたある辛口のコメントをニューヨーク・タイムズは紹介していた。曰く「ナノはゴルフカートでなくてやっぱり自動車だったよ。インドの街中を走る限りはね。もっとも都市を結ぶ高速道路ではどうだか分からないが。」
21万円、排気量624CCの車はこんなものだろう。しかし一昨年までならスクーターの買換え商品程度の話題にしかならなかったかもしれない格安自動車が話題になるということは、世界的な不況・ガソリン価格に対する不安・環境問題のプレッシャーが影響力を高めているということだ。
ナノが世界で売れる車になるかどうか分からない。だがそれに続く車例えばルノー・日産がインドのバジャジ自動車と組んで作る格安車などにはインド以外の市場がありそうだ。何故なら先進国でも自動車に求める価値が変っているからだ。つまり車におけるオーバー・スペックの時代が転換期にさしかかったのだ。
高級車が成功のステータスシンボルでそれを3,4年で買い換える時代は終わったのだろう。日本ではカーシェアリングが話題になっているが、これも同じ文脈で考えるべき話だ。また健康のためにクロスバイクで通勤する人も増えている。クロスバイクの中には20万円を超えるものもザラだから、その内に自動車より高い自転車で通勤することが、健康で環境に優しい人のステータス・シンボルになるかもしれない。まあ、これは半分冗談だが。