昨日(17日)の夜、スポーツクラブでランニングをしながら7時のNHKニュースを見ていると、オバマ大統領がA.I.G.の話をしながら咳き込んだ。彼はすかさずchoked by angerと言って苦笑いした。「怒りで喉が詰まった」という訳だ。
さてこの苦笑いをどう解釈するかだが・・・・私はオバマ大統領は「ガイトナー財務長官にあらゆる手段を使ってA.I.G.が従業員に支払ったボーナスを取り戻す様に指示した」が、内心では取り戻すことは困難なことを良く承知しているので苦笑いしたのではないかと考えている。
何故オバマがボーナスを取り戻すことが困難なことを知っているかというと彼が弁護士で私的契約の重要性を熟知しているからだ。
7時のニュースを見る前に私はニューヨーク・タイムズのThe Case for Paying Out Bonuses at A.I.G. (A.I.G.がボーナスを払う根拠)という論説を読んでいた。根拠は二つである。一つは企業と従業員の契約であり、それを政府が強権で妨げることはできないというものだ。もう一つはボーナスを支払うのは有能な社員をA.I.G.に引き止めて、クレジット・デリバティブの仕事を継続させないと混乱をきたしてマイナスだというものだ。後者の議論については既にA.I.G.を退職した連中にもボーナスを支払っているので話が複雑になるから、前者についてのみここでは考えよう。
この問題は「税金を使って救済した会社の幹部に一般の国民が不況で苦しんでいる時ボーナスを支払うことは怒りを覚える」という極めて常識的な判断と契約は契約として尊重することが社会の基盤であるという契約尊重の理念の対立ととらえることができる。
日本であれば常識的判断が圧倒的優位に立つところだが、そうはならないところが英米の契約社会である。英米と英を入れたのは、英国で破綻したロイヤルバンクオブスコットランドの経営者グッドウインがブラウン首相らの圧力にもかかわらず、年間70万ポンド(約1億円)の年金を受取ることになっているからだ。
A.I.G.のボーナス問題についてエコノミスト誌も政府に殆ど打つ手なしという見解を取っている。同誌はもしオバマが大統領特権を使ってボーナスを支払う契約の破棄を行うようなことがあれば、共和党はボーナスを批判するよりも激しく攻撃するだろうと述べる。国家権力の私的自治に対する介入に強い反対があるのだ。
またA.I.G.に次の支援金を出す時にボーナス資金分を差し引く案もあるが馬鹿げた話だと同誌は切り捨てる。つまりもしそれでA.I.G.の資金繰が回るなら元々多めに予算を組んでいたことになるからだ。
米政府がA.I.G.幹部からボーナスを取り戻せないとすると、国民の不満は募り、オバマ政権が考えている次の財政支出について議会の承認を得ることが難しくなりそうだ。次のオバマがむせる時は彼は何が首を絞めたというのだろうか?<script language="JavaScript" type="text/JavaScript"></script><script language="JavaScript" type="text/JavaScript"></script>