金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

AIGのボーナス・契約と常識のはざま

2009年03月18日 | 社会・経済

昨日(17日)の夜、スポーツクラブでランニングをしながら7時のNHKニュースを見ていると、オバマ大統領がA.I.G.の話をしながら咳き込んだ。彼はすかさずchoked by angerと言って苦笑いした。「怒りで喉が詰まった」という訳だ。

さてこの苦笑いをどう解釈するかだが・・・・私はオバマ大統領は「ガイトナー財務長官にあらゆる手段を使ってA.I.G.が従業員に支払ったボーナスを取り戻す様に指示した」が、内心では取り戻すことは困難なことを良く承知しているので苦笑いしたのではないかと考えている。

何故オバマがボーナスを取り戻すことが困難なことを知っているかというと彼が弁護士で私的契約の重要性を熟知しているからだ。

7時のニュースを見る前に私はニューヨーク・タイムズのThe Case for Paying Out Bonuses at A.I.G. (A.I.G.がボーナスを払う根拠)という論説を読んでいた。根拠は二つである。一つは企業と従業員の契約であり、それを政府が強権で妨げることはできないというものだ。もう一つはボーナスを支払うのは有能な社員をA.I.G.に引き止めて、クレジット・デリバティブの仕事を継続させないと混乱をきたしてマイナスだというものだ。後者の議論については既にA.I.G.を退職した連中にもボーナスを支払っているので話が複雑になるから、前者についてのみここでは考えよう。

この問題は「税金を使って救済した会社の幹部に一般の国民が不況で苦しんでいる時ボーナスを支払うことは怒りを覚える」という極めて常識的な判断と契約は契約として尊重することが社会の基盤であるという契約尊重の理念の対立ととらえることができる。

日本であれば常識的判断が圧倒的優位に立つところだが、そうはならないところが英米の契約社会である。英米と英を入れたのは、英国で破綻したロイヤルバンクオブスコットランドの経営者グッドウインがブラウン首相らの圧力にもかかわらず、年間70万ポンド(約1億円)の年金を受取ることになっているからだ。

A.I.G.のボーナス問題についてエコノミスト誌も政府に殆ど打つ手なしという見解を取っている。同誌はもしオバマが大統領特権を使ってボーナスを支払う契約の破棄を行うようなことがあれば、共和党はボーナスを批判するよりも激しく攻撃するだろうと述べる。国家権力の私的自治に対する介入に強い反対があるのだ。

またA.I.G.に次の支援金を出す時にボーナス資金分を差し引く案もあるが馬鹿げた話だと同誌は切り捨てる。つまりもしそれでA.I.G.の資金繰が回るなら元々多めに予算を組んでいたことになるからだ。

米政府がA.I.G.幹部からボーナスを取り戻せないとすると、国民の不満は募り、オバマ政権が考えている次の財政支出について議会の承認を得ることが難しくなりそうだ。次のオバマがむせる時は彼は何が首を絞めたというのだろうか?<script language="JavaScript" type="text/JavaScript"></script><script language="JavaScript" type="text/JavaScript"></script>

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中央銀行動くが・・・・

2009年03月18日 | 社会・経済

今日(3月17日)の日経新聞朝刊によると、日銀は昨日の政策委員会で「国際業務を展開している大手行などに総額1兆円の劣後ローンを提供する」ことを決めた。この動きはバンクオブイングランドが英国国債の購入を決定した動きやスイスの中央銀行がスイスフラン高を阻止する為替介入計画を発表するなど各国の中央銀行の活発な動きと軌を一にする。

ファイナンシャルタイムズは今週の米連銀政策委員会で「米連銀がファニーメイとフレディマックが発行した住宅ローン担保債券の購入を決めるのではないかとアナリスト達が予想している」と報じている。

同紙は日本銀行の劣後ローンの効果については限定的だというアナリストの意見を報じている。バークレーズ・キャピタルのロジャース氏は「劣後ローンは銀行のTire 2キャピタルを増強する効果はあるが、今市場がもっとも注目しているTier 1キャピタルを強化するものではないので効果は限定的だ」と述べている。

Tier 1キャピタルの中でもよりコアである普通株式自己資本比率が米国で実施中のストレス・テストの焦点であることはこのブログで既に述べたが、大手邦銀幹部がこのことをよく理解しているとするならば、劣後ローンによる貸し渋り防止効果は限定的であろう。

先週シティが今年に入って業績が好調だと社員向けにアナウンスした後、銀行セクターにプラスの材料が続いたので、同セクターを中心に株価は反発しているが持続するかどうかは疑問だ。問題は実体経済の見通しが悪くなっていることだ。

IMFのアドバイサーは昨日世界経済は0.6%収縮するという見通しを述べた。中でも最悪なのは日本で5%の収縮が見込まれる。1月の公式予想が2.6%の収縮だったから一層悪化している訳だ。

各国の中央銀行の動きと悪化する世界経済特に今後の雇用の悪化などの綱引きをどうみるか・・・・だが、今回のちょっとした株高は長続きしないような気がしてならない。ただ同時に大きく下押しするリスクも遠のいたとも思っているのだが・・・・。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする