金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日本人の高級ブランド離れ

2009年06月03日 | 社会・経済

昨日(6月2日)付のファイナンシャル・タイムズに「日本人の高級ブランド離れ」という記事が出ていた。記事は矢野経済研究所が同日発表した「国内インポートブランド市場に関する調査結果2009」http://www.yano.co.jp/press/pdf/479.pdfを引用しながら、高級ブランド離れが一時的な現象ではなく、長期的なトレンドだと説明する。

矢野研究所のレポートによると、2008年の高級輸入ブランド市場は1兆643億円と前年比89.8%の規模に縮んだ。更に2009年には1兆円の大台を割り込み、9、927億円の規模に縮むと予想される。これは1996年のピーク(1兆8970億円)の約半分の規模だ。

またFTはルイビトンの今年第一四半期の売上が18%減少したと報じている。

世界的な景気後退で全世界で高級品市場は縮小しているが、マッキンゼーのSalsberg氏によると日本の状況がより深刻で縮小トレンドが持続するということだ。これは馬鹿げた数と規模の高級店を出店してきた国際ブランドには頭の痛い話だが、私はある意味では日本人の正常回帰だと考えている。

日本の高級品市場(定義は不明だが輸入品・国産品合計)規模は300億ドル(約3兆円)だ。これは日本を除く全アジアの高級品市場と等しく、全欧州の3割弱でアメリカの3割強という規模だ。人口規模を考えると日本の高級ブランド市場は異常に大きいといわざるを得ない。

1980年代に日本は世界唯一の「大衆高級品市場」になった。日本の消費者はルイビトンのバッグやエルメスのスカーフを持つことを「中産階級のシンボル」と考えた(ありがたいことに私のワイフはこのような考えを持たなかったが)。

だが考えてみると「大衆高級品市場」Mass luxury marketという概念は矛盾に満ちている。何故なら高級品は少数の「富裕層」が持つから高級品なのであり、大衆が持つようになった途端それは「大衆品」になり、高級品ではなくなるからだ。

この点について前述のマッキンゼーのSalsberg氏は「中国で高級ブランド店が成長しているが、日本のように高級ブランド店が溢れるようになると、それ自体ブランド価値を弱め業界を破壊する」と警告している。

また矢野研究所のレポートは、高級ブランドは「アクセシブル型」(一般に手が届くという意味)と「アルティメット型」(究極のラグジュアリー・ブランドという意味)に二極化するだろう予測する。これは日本人の所得格差が拡大している傾向と平仄を合わせるものだ。だが一般大衆が手が届くようになったブランドはもはや「高級ブランド」とは言わないと私は考えている。

だが若い一般の男女が高級ブランドで身を飾っていた時代が異常だったと考えると「アクセシブル化」は歓迎するべきだろう。世の中にはブランド品を買うより、はるかに意味のあるお金の使い方があるからだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする