6月9日に政府は「骨太の方針09」素案で消費税を段階的に12%まで引き上げ、平成19年度までに財政の基礎収支を黒字化させるという案を示した。しかし同日IMFが発表した先進国の公的債務に関するレポートを見るとそんな悠長なことで良いのか?と不安が募る。
今年に入って米国や欧州の国債金利は4%前後へ急上昇している。日本の10年物国債金利は若干上昇気味だが1.5%近辺だ。これだけを見ていると日本国債に対する危機感は沸かないが各国の財政状況を比較すると日本が非常にまずい状況にあることが改めて分かる。以下IMFのレポートをまとめたエコノミスト誌の記事を見ながら日本と先進国の財政状況を概観する。
IMFによるとG20メンバーの内の10の先進国の公的債務(グロスベース)は、来年までにGDPの106%に達する(2007年はGDPの78%)。公的債務にはグロスベースとネットベースがある。グロスベースとは国債等債務の総合計でネットベースとは国が保有している資産を差し引いた純債務額だ。例えば日本の公的債務(グロスベース)はIMFの資料によると、GDPの170.6%でネットベースは85.9%だ。日本の場合郵貯銀行等の資産を国債残高から差し引くと債務額は半減するが、それでも先進国の中でイタリア(GDPの87.6%)と並んで財政状況は飛び抜けて悪い。
エコノミスト誌は世界的な金融危機と景気後退に際して政府が国債を増発して景気刺激策を取ったことは正しいことと評価し、本当の問題は今後いかに財政バランスを改善するか?という点だと指摘する。
戦後の先進国の歴史を見ると一時的に多額の債務を抱えた国はあるが、経済の高度成長の効果で比較的短期間で債務を圧縮している。例えば第二次大戦のために英国はGDPの250%という多額の債務を抱えたが、高度成長のお陰で債務削減に成功している。過去20年間でみるとカナダ、デンマーク、アイルランドなどが、高度成長と緊縮財政の効果でGDPの4割以上債務を減らすことに成功している。
しかし現在では世界経済全体が弱っているので、輸出に頼る高度成長は期待できない。悪い先例として紹介されているのが日本だ。日本はバブル崩壊後当時GDPの65%程度だった公的債務が現在では170%へとほぼ3倍に膨れ上がっている。
例えばある国の公的債務をGDPの100%とし、名目経済成長率を4%、長期金利を5%とすると、政府は公的債務のGDPに対する比率を一定に保つためには、プライマリー・バジェット・サープラス(利払い費を除く財政収支黒字)を1%にする必要がある。もし公的債務を10年間でGDPの10%削減しようとすると、さらに1%財政黒字に持っていく必要がある。
IMFは5年後の各国のGDPに対する公的債務(グロスベース)の比率を次のように予想している。米国106.7%、英国87.8%、フランス89.7%、イタリア129.4%、韓国51.8%、そして日本はなんと234.2%!
IMFは先進国の高齢化の問題などを考慮に入れて持続可能なGDPに対する公的債務(グロスベース)比率を60%と設定した。もし日本が5年以内にこれを達成するとすれば毎年GDPの12%以上の財政黒字を上げる必要がある。
「骨太の方針」素案では10年後にプライマリーバランスを黒字化させるといっているが、IMFの試算が正しいとすると日本の債務はとんでもない金額に膨れ上がるのではないだろうか?
エコノミスト誌は税率を上げるだけでなく、色々やれることはあると示唆する。年金費用を削減するために退職年齢を引き上げるのも一つの方法だ。また税法を見直し徴収漏れを防ぐのも一つの方法だし、財政支出の圧縮も課題だ。そして最後にDoing nothing is no longer an option.と結ぶ。「何もしないことはもはや選択肢ではない」
この一節を書いた時エコノミスト誌の論説委員の頭の中に混迷する日本の政治の姿が浮かんだかどうかは分からない。しかしもし日本の政治家連中に見識というものがあれば、襟を正して聞くべき警鐘であろう。また我々国民も政府の無駄遣いを徹底的に圧縮することを前提に消費税の引き上げを早期に受け入れるべき時期にあることを認識するべきである。国家の財政状態を正常化しておかないと、次の危機が起きた時まったく打つべき手がなくなるからだ。