金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

IMF、先進国の財政赤字に警鐘を鳴らす

2009年06月15日 | 社会・経済

 6月9日に政府は「骨太の方針09」素案で消費税を段階的に12%まで引き上げ、平成19年度までに財政の基礎収支を黒字化させるという案を示した。しかし同日IMFが発表した先進国の公的債務に関するレポートを見るとそんな悠長なことで良いのか?と不安が募る。

今年に入って米国や欧州の国債金利は4%前後へ急上昇している。日本の10年物国債金利は若干上昇気味だが1.5%近辺だ。これだけを見ていると日本国債に対する危機感は沸かないが各国の財政状況を比較すると日本が非常にまずい状況にあることが改めて分かる。以下IMFのレポートをまとめたエコノミスト誌の記事を見ながら日本と先進国の財政状況を概観する。

IMFによるとG20メンバーの内の10の先進国の公的債務(グロスベース)は、来年までにGDPの106%に達する(2007年はGDPの78%)。公的債務にはグロスベースとネットベースがある。グロスベースとは国債等債務の総合計でネットベースとは国が保有している資産を差し引いた純債務額だ。例えば日本の公的債務(グロスベース)はIMFの資料によると、GDPの170.6%でネットベースは85.9%だ。日本の場合郵貯銀行等の資産を国債残高から差し引くと債務額は半減するが、それでも先進国の中でイタリア(GDPの87.6%)と並んで財政状況は飛び抜けて悪い。

エコノミスト誌は世界的な金融危機と景気後退に際して政府が国債を増発して景気刺激策を取ったことは正しいことと評価し、本当の問題は今後いかに財政バランスを改善するか?という点だと指摘する。

戦後の先進国の歴史を見ると一時的に多額の債務を抱えた国はあるが、経済の高度成長の効果で比較的短期間で債務を圧縮している。例えば第二次大戦のために英国はGDPの250%という多額の債務を抱えたが、高度成長のお陰で債務削減に成功している。過去20年間でみるとカナダ、デンマーク、アイルランドなどが、高度成長と緊縮財政の効果でGDPの4割以上債務を減らすことに成功している。

しかし現在では世界経済全体が弱っているので、輸出に頼る高度成長は期待できない。悪い先例として紹介されているのが日本だ。日本はバブル崩壊後当時GDPの65%程度だった公的債務が現在では170%へとほぼ3倍に膨れ上がっている。

例えばある国の公的債務をGDPの100%とし、名目経済成長率を4%、長期金利を5%とすると、政府は公的債務のGDPに対する比率を一定に保つためには、プライマリー・バジェット・サープラス(利払い費を除く財政収支黒字)を1%にする必要がある。もし公的債務を10年間でGDPの10%削減しようとすると、さらに1%財政黒字に持っていく必要がある。

IMFは5年後の各国のGDPに対する公的債務(グロスベース)の比率を次のように予想している。米国106.7%、英国87.8%、フランス89.7%、イタリア129.4%、韓国51.8%、そして日本はなんと234.2%!

IMFは先進国の高齢化の問題などを考慮に入れて持続可能なGDPに対する公的債務(グロスベース)比率を60%と設定した。もし日本が5年以内にこれを達成するとすれば毎年GDPの12%以上の財政黒字を上げる必要がある。

「骨太の方針」素案では10年後にプライマリーバランスを黒字化させるといっているが、IMFの試算が正しいとすると日本の債務はとんでもない金額に膨れ上がるのではないだろうか?

エコノミスト誌は税率を上げるだけでなく、色々やれることはあると示唆する。年金費用を削減するために退職年齢を引き上げるのも一つの方法だ。また税法を見直し徴収漏れを防ぐのも一つの方法だし、財政支出の圧縮も課題だ。そして最後にDoing nothing is no longer an option.と結ぶ。「何もしないことはもはや選択肢ではない」

この一節を書いた時エコノミスト誌の論説委員の頭の中に混迷する日本の政治の姿が浮かんだかどうかは分からない。しかしもし日本の政治家連中に見識というものがあれば、襟を正して聞くべき警鐘であろう。また我々国民も政府の無駄遣いを徹底的に圧縮することを前提に消費税の引き上げを早期に受け入れるべき時期にあることを認識するべきである。国家の財政状態を正常化しておかないと、次の危機が起きた時まったく打つべき手がなくなるからだ。

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Strike gold (イディオム・シリーズ)

2009年06月15日 | 英語

Strike goldとは「金持ちになる」「成功する」というイディオムで、俗語という注釈がある。Strikeの中に「見つける」とか「掘り当てる」という意味があるので、文字通り金を掘り当てて金持ちになるということだろう。インドの住宅開発を取り上げたエコノミスト誌に次の文章が出ていた。

Lenders and developers are convinced that they have struck gold. 「貸し手(銀行)と不動産開発業者は金鉱を掘り当て金持ちになり続けることを確信した」という意味である。

インドの不動産開発業者マテラン・リアルティはムンバイの郊外で超廉価住宅1万5千戸の開発を行っている。大きさは19平米というから日本のワンルーム・マンション程度で、価格は21万ルピー(約4,500ドル)、45万円程度だ。3階建てでコスト削減のために飛散灰(通風孔の燃えかす)などを混ぜたコンクリートブロック作りだ。インドのスラム街に住み、運転手や工場労働者として収入を得ている人たちの平均年収は9万ルピー(20万円程度)というから、45万円のワンルーム住宅は手が届く範囲だ。ムンバイの市内の70平米のマンション(英語ではフラット)が50万ドルというから二桁違う。

20万円台の低廉車を作ったタタ自動車のタタグループも100万円前後の超廉価住宅の建設を行っている。

インドの低所得者層にとって住宅取得のネックは住宅ローンだったが、最近国営の住宅銀行と農業・地域振興銀行が25%の頭金支払等を条件に、信用履歴のない低所得者層に住宅ローンを行うことを決めた。これらの銀行と不動産業者は低所得者向け住宅市場が巨大な市場と見ているから「金鉱を掘り当てた」と確信している訳だ。

もっともエコノミスト誌は「サブプライムローンと建築ブームが再び魅力的になるかもしれないと誰が推測しているのだろうか?」と若干の皮肉を交えて結んでいる。

私はインドの低所得者層に対する住宅供給プランはサブプライムの二の舞になるとは思わないが、その内質の悪い開発業者により粗悪な住宅が建設され、建物が倒壊するようなリスクはあるだろうと推測している。しかしそれでも多くの人々がスラム街を出て、小さくても自分の住居に住むことは良いことである。

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映画「ハゲタカ」、面白かった

2009年06月15日 | 映画

昨日(6月14日)ワイフと武蔵村山のモールに映画「ハゲタカ」を見に行った。中々面白い映画だった。約2時間15分退屈するところがなかった。ストーリーは日本の名門だが問題を抱えるアカマ自動車を中国の国家ファンドが買収にかかり、それを鷲頭ファンドという日本人が率いるファンドがホワイトナイトとして防衛するという話だ。

メインシナリオを加えて、中国残留孤児の問題、派遣社員の不法採用や解雇の問題、リーマンブラザース(映画ではスタンリー・ブラザース)の破綻問題、サブプライムの一種オルトA市場の崩壊、オイルマネーなど現在の金融や経済を取り巻く話題が盛り込まれていて中々リアリティがある。

だが本当のリアリティは中国のファンドが日本企業を買収することがあるかどうかだ。今のところ具体的にこれ程大きな買収の話は聞かないが、中国企業による日本企業への投資や場合によっては買収ということは今後起きると予想されることだ。

というのは中国政府は今まで制限していた中国企業による海外投資を大きく緩和することを決めたからだ。中国政府は中国企業が輸出で稼いだ外貨(主にドル)で米国国債を買っていたが、米国債一点投資の不安から民間企業に稼いだドルによる投資を進める方向に舵を切ったからだ。

企業を投資対象と見て、買収後は一番投資リターンが高くなるように企業の再編や解体を平気で行うという点で中国人とアメリカ人の企業観はよく似た面がある。資本の論理が支配する世界だ。もっともアメリカ人の企業観は多様なので、拝金色が強く企業倫理が一般的に低い中国の企業観と同一視する訳にはいかないが。

アカマ自動車は中国ファンドの買収から逃れるが、社長は経営責任は経営責任を取らされて解任される。アカマ自動車が新しい社長の下で困難な再建を果たせるかどうか?映画はここで終わる。

グローバル化は否応なしに日本企業を激しい資本の論理の下に置いたことを描いた迫力ある映画だった。「こんなことってあるの?」と映画の後ワイフは聞く。かなりリアリティがあると思うよというのが私の答だ。近未来を含めての話だが。

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