金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

テスラはワイルド・カード

2009年06月24日 | 社会・経済

今日の日経新聞に「米政府、日産に低利融資」~環境支援で1500億円~という記事が出ていた。これは2007年に米国政府が先進技術自動車製造奨励プログラムとして250億ドルの政府資金を予算取りした中から融資されるもので、今回はフォードが59億ドル、日産が16億ドル、テスラが4.65億ドルの融資を受ける。

米国マスコミの評価は如何?と思い、ニューヨーク・タイムズを読んだところ、面白い文章に出会った。

Tesla was perhaps the wild card in the funding equation because it is a small start-up.という文章だ。

テスラTeslaというのは2003年にカリフォルニア州で設立された電気自動車メーカーでベンチャー企業(start up)だ。そのテスラが米政府から電気自動車開発資金の融資を受けた。文中にあるwild cardをどう解釈するか?がポイントだろう。ワイルド・カードは一般的に「トランプのオールマイティ」とかコンピュータの「検索の時に総ての言葉を代用する記号」という意味だが、この場合は当てはまらない。英語辞書を調べると「重要な人物・要素だが、予想できないこと」という意味があることが分かった。辞書にIn a sailboat race the weather is the wild card. という例文が出ていた。「ヨットレースでは天候がワイルドカード(予想できない重要な要因)だ」という意味だ。

ニューヨーク・タイムズの文章に戻ると「テスラは小さなベンチャー企業なので、恐らく融資決定方程式の中で予想できないが重要な企業だったのだろう」という程度の意味になる。

今回の低利融資プログラムは、金融面で問題のある企業つまりGMやクライスラーは排除されている。その中でテスラは小さな新興企業だが、政府融資を受けることができた。なおテスラはベンチャー企業だが、先月ダイムラーが同社の株式を約10%取得している。また同社は来月から黒字化すると述べている。

テスラの最初の電気自動車ロードスターは10万9千ドルという高値にもかかわらす650台を超える注文が殺到した。また2011年にはモデルSを投入する予定だ。モデルSは一回の充電で300マイル(480km)走行可能。充電時間はわずか45分。価格は57,400ドル、税金優遇措置により49,900ドルになるという。燃費はプリウスの倍というから経済的にも競合しそうだ。

電気自動車の将来はどうなのだろうか?ファイナンシャル・タイムズによると、ミシガン・ベースの調査会社CSM Worldwideは、世界中の自動車メーカーは2015年には10万台の電気自動車を作るだろうと予想している。これは世界の自動車生産台数のわずか0.1%だ。だが、米国政府の省エネ自動車奨励プログラムを受けようと70社以上の自動車メーカーや部品供給業者が申請を行っている。その中には第二、第三のテスラがいるかもしれない。バッテリーの量産による低価格化が進むと電気自動車のシェアが急進する可能性もある。

私は電気自動車はガソリン車向けの巨大な製造ラインを抱えない新興自動車メーカーにある面で優位性があると考えている。テスラはひょっとすると「オールマイティ」という意味でwild cardと呼ばれる日があるかもしれない。

いずれにせよ自動車メーカーや部品メーカー特に金型メーカーなどにとって、電気自動車そのものが「予想できない重要な要素」ということでwild cardになってきたことだけは確かだ。

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オーストラリア・ワインの成功と失敗

2009年06月24日 | 社会・経済

私はワイン好きだが全く通ではない。昔の会社の後輩でご実家の酒屋さんを継いだ人から毎月2本ワインを購入して飲んでいる(無論他にも安いワインを買っているが)。そのお酒屋さんは手頃な値段で味の良いワインを選んだ上「解説」まで作ってくれるのだが、私はすぐ銘柄と味を忘れてしまう。ところで近くのスーパーで買う安いワインはチリやオーストラリアのものが多い。オーストラリア・ワインでは「ワラビー(小型のカンガルー)」のラベルがついたイエロー・テイルという銘柄をよく買う。今日の話はこのオーストラリア・ワインに関するニューヨーク・タイムズの話からスタートする。

オーストラリア・ワインは前世紀末頃から海外市場への進出を始め、1999年から2007年の間に海外売上を3倍以上伸ばした。2004年にはイタリア、フランスを抜いて英国では最大のシェアを取った。英国でオーストラリア・ワインを取り扱ったのは、数社の大手スーパーマーケットで、彼らは購買力にものをいわせて購入価格を思い切り叩いた。この時期チリ、アルゼンチン、南アフリカのワインと競合していたので、大手スーパーは交渉力を持っていたのだ。

オーストラリア・ワインがアメリカで成功した理由は、有名なワイン評論家ロバート・パーカー氏の力によるところが大きい。彼はパーカー・ポイントなる独自の評点で世界中のワインをランク付けしている。その彼が南オーストラリアのシラーズ種のワインを高く評価したので、シラーズ種のワインが馬鹿売れした訳だ。

話はそれるがロバート・パーカー氏は日本語のホーム・ページも開いている。http://www.erobertparker.jp/info/welcome.php

1万2千円払って会員になると彼の評点とテイスティング・ノートを見ることができるということだが、私には猫に小判なので止めておく。

ところがシラーズと南オーストラリアだけが有名になり、オーストラリア・ワインというとこの一種類だけと消費者は思ってしまった。また廉価ワインで有名なイエロー・テイルが市場を席巻した結果オーストラリア・ワインは米国ではコモディティ(普及品)と思われてしまった。一度普及品と思われると値崩れを防ぐことは難しい。2007年のピーク時に較べて米国で消費されるオーストラリア・ワインは量で4%、金額ベースで25%減ってしまった。

昨年のオーストラリア・ワインの輸出価格は英国向けが1リットル当たり2.91豪ドル、米国向けが3.22豪ドル、中国向けが4.23豪ドルだ。因みに日本とシンガポール向けは5豪ドル以上ということだ。

ワイン価格の下落を受けて、オーストラリアのワイン業界では生産コスト(最近旱魃が多く灌漑費用がかさむ)を吸収できなくなり、減産・ワインメーカーの統廃合が起きている。業界としては「高級化」と「アジア特に中国市場の開拓」を目指しているという。

オーストラリア・ワインの成功と失敗はビジネス面で幾つかの示唆を与えてくれる。一つは嗜好品は普及品という印象を消費者に持たれると際限ない価格競争に巻き込まれる」ということだ。また「量販店に主導権を取られると価格競争に巻き込まれる」というのも教訓だ。時間をかけて消費者教育を行っていく、ブランドイメージを高めるという努力が不可欠ということだ。

それにしてもどうして日本は英米の倍近い値段を出してオーストラリア・ワインを買うのだろう。イエローテイルを輸入しているサッポロビールさんしっかりして下さいと言いたいところだ。

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