「日本の政治家は素人に勝てず」と言っても、日本の政治家の政策が素人以下という意味ではない。日本の政局の動きが海外の大手新聞では「素人」の活動ほどにも注目されていないということだ。私が読んでいるFT,ニューヨーク・タイムズ、エコノミスト誌など海外のクオリティ・ペーパーは、最近の日本の政治・政局をほとんど取り上げていない。何故取り上げないのかというと話題性がなく読者の興味を引かないからだ。「犬が人間を咬んでもニュースにならないが、人間が犬を咬んだらニュースになる」という格言を適用するならば、今日本のマスコミを賑わしている政治献金問題(与謝野財務相の迂回献金疑惑、鳩山民主党代表の献金虚偽記載など)は「犬が人を咬む」程度の話でニュースにはならんということだろう。また総選挙後民主党が政権を取っても、今と余り変わらないと踏んでいることもある。
さて「素人」であるが、こちらはニューヨーク・タイムズに「東京・高円寺で若者が政府に抗議行動を起こしている」という記事があり、かなりの読者が読んでいた(人気ランクで分かる)。その記事の中に「活動家の松本哉氏が抗議する若者達を集めている」という話があった。この松本氏達が高円寺で開いているリサイクル・ショップが「素人の乱」だ。
回りくどい話になったが「素人の乱」をベースにした高円寺での若者達の抗議活動は、ニューヨーク・タイムズの読者の耳目を集める記事になったが、政治家の話はメディアからそっぽを向かれているので「政治家は素人に勝てず」ということだ。
若者の抗議活動といっても高円寺の活動は平和的でおとなしいものだ。それでも海外紙で話題になるのは日本では70年代中頃以降若者・学生の抗議行動がほとんど見られなかったからだ。つまり久しぶりに「人が犬を咬んだ」のでニュース性が出たということだ。
ニューヨーク・タイムズは「60年代の若者達は中産階級をベースとした日本を変えようとして運動を行ったが、現在の若者は職の安全とセーフティ・ネットを求めて、つまり中産階級の仲間入りをしたくて運動を開始した」と解説している。
「とうとう貧乏人の反乱が始まった」と前述の松本氏は声高に叫んでいるが、彼ら若者が今度の総選挙で大きな影響力を持つと見る専門家はほとんどいない。何故なら若者の投票数は中高年の投票数より少ないし、一票の重みが軽い都市部に集中しているからだ。
しかしながら若者の怒りが政治に影響力を与え始めている。麻生首相は「企業に臨時社員から正社員への切り替えを促す」などの動きを示している。だがこれはいかにも小手先の対応だ。本筋は欧州の一部で導入されている「同一労働・同一賃金」を法制化することだと私は考えている。これが公平で持続性のある社会を作る方法だろう。
日本の若者が直ぐに「政治的な影響力を持つ集団」になるかどうかは分からない。しかし昨今の首長選で若者が選ばれていることを見ると「古い政治家の疑惑のなすりあいには飽きた。若い人に任せてみよう」という機運が高まっていることは確かだ。若い選挙民が政治不信から脱却して、自分達の主張を選挙にぶつけようと考えると影響力を持ち始めると考えている。その時海外メディアは再び日本の政治を取り上げるだろう。