昨日(10月5日)日銀は金融政策会合で事実上のゼロ金利への復帰(06年6月以来)と5兆円の国債、CP、ETF等の買取ファンドの設定を発表した。この予想外の発表に株価は急進、ドル円為替は円安に振れた。株価の方は世界的な金融緩和ムードを受けたグローバルな株高トレンドをフォローして堅調だが、為替は一夜明けると元の水準に戻っている。
日銀の金融政策は円高防止とデフレ阻止に効果があるのだろうか?
ニューヨーク・タイムズ(NT)は「日本の中に昨日の発表は円高とデフレの流れを変える上でほとんど効果がないというセンチメントが広がっているように見える」と分析している。
何人かのアナリストは日銀の緩和策が不十分でもっと市場に流動性を供給するべきだと述べているが、他の人はイージーマネーは既に十分投入されているので、これ以上日銀が資金を供給してもスランプから脱出効果はほとんどないと論じる。
私は後者の意見に賛成なので、NTの分析を紹介してみたい。
追加的金融緩和策の効果が少ないと論じる人の論拠は「問題は資金の流通量の問題ではなく、資金が如何に配分されるかの問題であり、イージーマネーによりゾンビ企業がテコ入れされ、巨大な資金が急拡大する老齢層に移転されることが問題だ。これらのことを変革する力を日銀はほとんど持っていない」ということである。
老齢層への資金移転・・・・という話は個人的には耳の痛い話なのだが、「貧しい若者から豊かな老人に所得を再配分する日本」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/4601という記事がJBpressに出ていたので紹介しておこう。
この記事の主旨は「日本は所得再配分前ではそれ程格差が大きい国ではないが、社会保障費等の移転後では格差が拡大している」ということで、資産ベースで見ると豊かな老人に貧しい若者が所得を移転していると指摘している。
話をNTに戻すと同紙はBNPパリバの河野龍太郎チーフエコノミストの「イージークレジットは資源の効率的配分を更に悪化させる。正しい政策対応は構造改革を推進することだ」という言葉を紹介している。
これは私見なのだが、昨年総選挙で民主党が大勝した時から今年の参院選挙で同党が大敗するまで「自由競争経済」とか「構造改革」という言葉はすっかり影を潜めていたが、ここへきて急に旗を振る人が増えてきたように見える~自慢する訳ではないが、私は『逆境』にあっても一度も規制緩和の旗印をたたんだことはない~
それはさておき、JPモルガンの足達エコノミストは「安定した地位を確保した企業は金融緩和策の利点を利用して、海外展開の拡大やその他の事業拡大策をプロアクティブに推進するイマジネーションに欠けている」と指摘している。
その理由を私なりに考えると「日本の社会は攻めて勝利を目指すより、負けないことを目指す、更にいうと逃げ切りを目指す社会になり切ってしまった」ということなのだろう。別の言い方をすると「勝ち組が負け組を完全に退場させない程度の勝ち方を続ける社会」だ。例えていうと日本の昔の戦争でやっていた「印地打ち」(石合戦)の世界。ところが外国との戦争になると蒙古のようにいきなり強力な石弓や手投げ弾まで持ち込んでくる。例えて言えば日銀の金融緩和策というのは、石合戦の石を弱体企業に配っているようなものだ。これでは国内では多少戦えても射程距離が違う鉄砲には勝てないのである。
ではどうすれば良いの?という解答まではNTは用意していない。皮肉をこめてThere are only so many rivers to dam and mountain roads topave.ダムを作ることができる多くの川と舗装することができる多くの山道があるのみと結んでいた。
つまり円高を利用して積極的に海外展開をするようなリスクを取っても成果が見合わないということなのだろう。このような風土の元では日銀がいくら無利息の資金を投入しても事業意欲は高まらず、デフレの解消も進まない。