ファイナンシャル・タイムズにDistress asset fire sales loom in Japan「日本で不良資産の投売りが迫っている」という記事が出ていた。ここでいう不良資産とは商業用不動産。ただし不良資産といっても古びたビルではない。銀座のティファニービルのようにピカピカのビルだ。投資の観点からいうと「良い株」というのは、優良会社の株ではなく、良いリターンをもたらす株であり、「良い不動産」というのは、ピカピカのビルではなく、良いリターンをもたらす不動産である。逆にピカピカのビルであっても、その買値が高くプアなリターンしか生まないとそれは不良資産なのである。
ゴールドマンが2007年にティファニービルを買った値段は380億円で利回りは2-2.5%程度。購入資金を融資したのは外銀で3年のローンは今年期日をむかえる。物件価値が半額に下がり(これはFTの記事以外の情報)、リファイナンスの目処が立たないので、ゴールドマンは物件をノンリコースレンダーに引渡して幕引きをし、レンダーはティファニービルを売りに出すだろうとFTは述べている。別の情報によるとゴールドマンは70数億円のエクイティを注ぎこんでいるがこれは全損になる。
不動産投資で損をするのは、ゴールドマンだけではない。FTによると、新生銀行の日比谷の本店(同行は本店を日本橋に移す予定)を2008年に1,180億円で購入したモルガンスタンレーのファンドも、来年早々に期日が来るローンのリファイナンス目処が立たないと当該ビルをノンリコースレンダーに引き渡すことになるだろう(エクイティは全損する)ということだ。
これらのディールでノンリコースローンを出している外銀は不良資産の整理が重要課題なので、リファイナンスやローンの期限延長ができない状況にある。今年は2006年から07年のブーム時に行われた商業用不動産融資が期日を迎えるので、リファイナンス難から売り物が多く出ると予想される。
高値で不動産を掴んだ投資家がいる一方、底値でそれらの物件を買おうとしている投資家がいる。たとえばセキュアード・キャピタルが運営するSCJ Investment Managementだ。
ところでノンリコースローンを出している日本の銀行はどうかというと、FTは監督官庁のある上級職の「日本の銀行は相対的に健全なので、不良資産を今売却して、ハゲタカファンドに利益を得る機会を与えるより、暫くリファイナンスして様子を見ることを選択する」というコメントを紹介している。
これに対してFTは「問題は邦銀の楽観主義を正当化する理由があるかどうかだ」と述べている。底が近いといわれながら中々底が見え難いのが日本の不動産市場。
今損を出すか、将来の市況回復にかけるか?いずれが正しいかは数年後の不動産市場を待つことになる。