FTに「投資家はデフレ懸念とインフレ懸念のはざまで悩んでいる」という記事が出ていた。長い間デフレ懸念に悩んでいる我々日本人からは贅沢な悩みにも見えるが。
連銀の一層の金融緩和策を予想して、ドルは多通貨バスケットに対して今年の最安値をつけ、短期国債は史上最低の利回りとなった。通常債券価格と逆の動きをする株価も欧米で上昇し、多くのコモディティ価格も上昇している。
インフレ連動債の利回りも過去最低水準に近い。しかし最近インフレ連動債の需要が高まっている。米国のインフレ予想率を測定する物差であるインフレ連動債の利回りと通常の国債利回りの差は6月以降で最高に開いている。
一般に投資家がデフレを予想しているのであれば債券が買われ、インフレを予想しているのであれば、株やコモディティが買われるはずだ。これについてFTはシュローダーのチーフエコノミストWade氏の「目下投資家は統合失調症に陥っている。投資家は短期のデフレを懸念するとともに将来のインフレも懸念している」という言葉を紹介している。
連銀が金融緩和策を拡大するという予想なので、物価が持続的に下落すると予想する人はほとんどいないが、足元の景気回復基調は弱々しく目先のデフレ懸念は強い。Stanford Life InvestmentのBatty氏は「懸念は過去35年間インフレと戦う政策を立案してきた中央銀行が経験がほとんどないデフレの可能性に直面することだ」と述べている。
BlackRockのUrwin氏は「物価の下落は国債価格にプラスで株価にマイナスという日本の経験は、役に立つ尺度かどうか懐疑的である。その理由は日本固有のものだからだ」と述べている。そして「現在デフレではないかと感じている環境はデフレではなく、ディスインフレの期間なのだ」と述べている。
ディスインフレとは物価がほぼ上がらなくなった状態で、デフレとはさらに需要が収縮し物価が下がり続ける状態だ。つまり日本は経済が収縮しデフレになったけれど米国はそこまで行っていない。だからデフレっぽく見えるけれどそうではないというのがこのUrwin氏の意見だろう。
とはいうもののデフレを懸念する投資家は多い。FTはドイツ最大手の運用会社DWSの共同責任者Hille氏の「恐らくデフレとインフレの可能性は半分半分。2,3年にまたがるテーマを求めるのではなく、ごく短期間で相場を張るべきだ。我々はトレーディング環境にいる」という言葉を紹介して締めくくっている。
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投資家が長期的なビューを持てないので、欧米で株と債券が同時に買われたり、新興国市場が過熱気味になってもなお資金が流入する状態が続いている。
モノに対する需要より供給の過剰が続くとデフレが起きる。供給が増えると値段が下がるのはモノだけでなく、お金も同じこと。つまり米国がこれでもかというばかりにドルの供給を続けるから、ドルの価値は下がり続ける。ドルの価値を下げて物価の下落を止めながら、輸出競争力を高めようというのが米国の戦略だからこれはしばらく続きそうだ。だがその裏で同時並行的に高まるインフレ懸念に投資家が敏感になりつつあるということだろう。