ニューヨークタイムズは「ルピー高を容認するインド」という記事を載せていた。話はインド南部の人口約200万人の都市Coimbatoreから始まる。Coimbatoreはコーヤンブットゥールと発音するらしい。不勉強にして知らない町だがグーグルマップで調べると分かった。関心のある方はこちらへ→
このコーヤンブットゥールは繊維の町で、昨今のルピー高で伝統的な廉価繊維産業は、中国、バングラディッシュの競争相手に負けて苦戦している。だがインド政府はルピー高を容認している。
インドルピーは過去16ヶ月間でドルに対して9%上昇した(それ故に円投ベースで見たインド株投資のパフォーマンスは良い)。だがインド政府はブラジルなどのように、自国通貨高に対して介入等を行っていない。何故かというと、ルピー高が対内投資を促進するというメリットが大きいからだ。
コーヤンブットゥールの繊維工場の跡には、英国の小売業者と南アフリカの投資会社がインドの不動産会社と提携して、Alliance Mallという巨大な複合商業施設を建設している。その規模は100万sf以上というから約9万㎡、非常に大きなモールだ。
外資の流入はインド経済の9%近い成長率を支えている。また外資の流入で株式相場は上昇している。財政赤字を抱えるインド政府は国営企業(例えば世界最大の石炭会社Coal India)の株式を売り出すことで90億ドルの資金を捻出する計画だ。
Alliance Mallを開発するProzoneの役員は「インドが8-9%の経済成長を持続する時、ボトルネックとなるのは資本だ」と述べる。
ルピー高の影響を産業面で見ると、付加価値の低い繊維産業のダメージは大きい(4-8月で前年比6.4%の輸出減)が、ソフトウエアや医薬品など付加価値が高く価格弾力性が低い産業のダメージは小さい。
従ってインド政府はトータルとしてルピー高を容認している訳だ。インド政府の通貨高を容認して、国内の消費を刺激する政策について多くの専門家は中国も同じような政策を取るべきだと主張する。
だがインドと中国の違いは経常収支尻だ。中国は世界最大級の経常黒字国だが、インドはG20中、米国についで4番目に経常赤字が大きい国だ。
インドの長期的な課題は経常赤字を削減するとともに、移り気な外資への依存度を減らすことだ。
インドがルピー高を容認するもう一つの理由は、2007年にドル買い・ルピー売りの為替介入を行い、ルピーを国債発行で吸収しようとしたが、うまくいかず11%のインフレを招いた苦い経験があることだ。
もっともインド中銀のSubbarao総裁は外資流入が巨額でボラティリティが高まり、マクロ経済を混乱させる場合は介入もありうると牽制している。
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強い経済成長力を持つインドが少なくともルピー高を容認するということは、個人投資家にとって心強い話だろうと思い紹介した次第である。
インドの様に巨大な国が産業構造を転換させることは容易ではないが、付加価値の高い産業へのシフトと内需主導型の経済成長を目指すことは持続的発展を可能にする。10年投資するならやはりインドだろう。