金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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TPPの怪、騒いでいるのは日本の政治家とマスコミだけ

2011年10月26日 | ニュース

日本ではTPP(環太平洋経済連携協定)に関する政治家、業界団体、マスコミの動きが活発化している。新聞の紙面だけ見るとあたかも賛否両論拮抗しているかのごとき印象を受けるが、少し前の世論調査ではTPP支持派が6割で反対派は2割以下である。反対の旗振りをしている農協などは「TPPに入ったら日本の農業は壊滅し、地域社会も崩壊する」と激高している(日経新聞・春秋欄)そうだが、輸入食品に対する関税を見るとTPPで影響を受ける農産物は限られている。

精米(関税777%)、小麦(同252%)、バター(同360%)など高い税率が設定されている食品に対する影響は大きいが、それ以外の食品はそれ程関税は高くない。野菜や鮮魚は5-10%であり、鶏肉20%以下、牛肉で38.5%である。

米についていえば、以前「お米の雑学」というブログhttp://blog.goo.ne.jp/sawanoshijin/d/20101201に書いたが、同じ品質の米を比較すると米国の米は日本の米の価格の7割弱である。農水省の計算は品質の悪い中国の加工用米の値段と日本のうるち米を比較して日本の米作農家が壊滅するという無茶苦茶な理屈なのである(TPPに加入しても中国の安い米が関税ゼロで入ってくる訳ではない)。

TPPに参加して農産物の関税がゼロになっても(実際は直ぐにゼロになる訳ではない)、影響を受けるのは酪農等農業の一部の分野であるというのが正しい判断で、そのような分野については所得保障で対応することを考えるべきなのである。

農協の意見は農業従事者全体の声ではなく、農協に加入することでメリットを得ている農家の声なのである。

一方TPPに加入したからといって、工業製品の輸出が米国で増えると考えることも問題だろう。これらの分野の米国の関税は2%前後なので、関税廃止の効果はそれ程大きくない。少なくとも円ドル為替の影響に較べると、である。

さて興味深いことは、日本ではマスコミを賑わせているTPP問題だが、米国のマスコミを見る(例えばニューヨーク・タイムズでTrans-Pacific Partnershipを検索する)と、まったくといってよい程、話題になっていない(ニューヨーク・タイムズではヒットなし)。つまり米国通商代表部の一部を除いてほとんど関心がない・・・という状況である。

その理由は何か?と推測してみた。

・現在米国が参加しようとしているTPPのメンバー国はシンガポール、チリ、ブルネイ等で参加したとしても経済的効果は限られている。

・日本については過去日本が日米二国間のFTAに反対していて米国政府も優先順位を下げている。一方実質的には関税障壁はかなり低くFTAで得られる追加的経済効果は限られている。また日本のTPP参加に期待しても、裏切られる可能性が高い。

ところで昨年11月に米国の調査機関Pewreseachが行なった世論調査では、米国民の44%が「自由貿易協定は米国経済に悪影響を及ぼす」と考え、35%の人が「良い影響を及ぼす」と考え、21%の人は不明と応えている。世論の反対が多い米国(正確にいうとTPPではなく、FTA一般であるが)がTPPを推進し、世論の賛成が多い日本がTPPに及び腰というのはなんとも奇妙なものである。

☆   ☆   ☆

TPP参加の可否を声高に主張をする前に政治家やマスコミはもっと事実に基いた論理的推論を国民に提示するべきだろう(TPPの交渉内容は秘密なので交渉に参加しないと分からない部分があるが)。

そして国会議員の一票の格差を早く是正して、消費者としての国民の声が正しく政策決定に反映されるようにするべきである。

それにしても幕末にペリーが来日して日本は「夜も眠れぬ」(太平の眠りを覚ます上喜撰たった四杯で夜も眠れず)騒ぎだった時、米国民はほとんど無関心だったのだろうか?(その後咸臨丸が渡米した時は大歓迎を受けたが)

通商外交問題が異常なまでに反響するのが島国としての日本の宿命かもしれないが、通商外交問題を政治抗争や利権保護に使うと余り良い結果がでないことは歴史が教えるところだ。

コメント (2)
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