中国の景気減速が数字にあらわれてきた。昨日(10月13日)発表された9月の貿易黒字は145.1億ドルと市場予想の163億ドルを大きく下回った。欧州の景気減速の影響が中国にも及びつつある。一方今日発表された消費者物価指数は6.1%と4ヶ月連続で前年同月比6%を越えた。このため金融緩和の余地は狭まっている。
中国の金融引締めは中小企業に大きな影響を及ぼし始めている。中国ではヤミ金融は法的には認められていない~むしろ規制されていないというべきか~が、ニューヨークタイムズがUBSの推計を引用するところでは、年間のヤミ金の貸付額は6300億ドル(50兆円弱)、GDPの1割になるという。因みに日本の貸金業協会の統計によると、今年7月末時点の営業貸付金の残高は9.5兆円強(内消費者金融が7.3兆円、事業者向けは2.3兆円。当然ヤミ金の統計はないが)だから中国のヤミ金市場の大きさが想像される。
タイムズは上海から飛行機で1時間南に飛んだところにある温州のあるバルブメーカーの社長が夜逃げをした話から始める。社長は300人の従業員に「会社持ちだから2日間の旅行に行け」と無理やり社員を3時間ほど離れたリゾート地に送った。社員が帰ってきたら会社はもぬけの殻。社長はどこかに雲隠れした。
同紙によると温州では最近数ヶ月の間に多重債務や差し迫った倒産危機のため夜逃げをした経営者は少なくとも90名はいる。
日本では商工ローンの日栄が債務者やその保証人に「腎臓を売れ」などと脅迫したことが社会問題になったが、中国では債務が弁済できないと誘拐され、膝蓋骨を砕くというからまさに中国の高利貸しは債鬼である。そんな目に合わされてはたまらないから、中国の債務者は家族ぐるみで夜逃げして時には海外に高飛びする。
この高利貸しをどうして取り締まれないのか?ということについて、タイムズは「高利貸しが蔓延しているだけはなく、ある意味では中国の金融・銀行政策の結果なので問題解決は難しい」と指摘している。
金融政策の一つの問題点はインフレ率が6%を超えているのに、預金金利はその半分に据え置かれている点だ。多くの人々は利殖のため、ヤミ金に金を流しているという。ある現地の調査によると温州の家計の9割以上はヤミ金に金を流しているということだ。
先に紹介した夜逃げしたバブルメーカーの社長もヤミ金で金を借りる一方、会社の運転資金を法外に高い金利で他の企業に貸し付けていた。また銀行から借り入れる力のある企業は、銀行から借り入れた資金をヤミ金に回している。
中国が高度成長を続けている間は、高い資金をヤミ金から借りても事業を繰り回すことができたが、成長の歯車が減速すると問題は一気に噴出す。
温州の話は一つのエピソードに過ぎず、中国全土に問題がくすぶっていると見るべきだろう。
先読みする人は欧州の次は中国、と考えている。ヤミ金の話は氷山の一角である。