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最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

【書評】「人工知能は人間を超えるか」~さらり読みの感想 

2015年05月24日 | 投資

「人口知能は人間を超えるか」(松尾 豊著 角川選書)を電子本でさらりと読んだ。さらりという意味は、この本の一つのコアである「ディープラーニングの仕組み」のところを、ちょっと箱の中に入れておいて、最終章の「変わりゆく世界~産業・社会への影響と戦略」を中心に読んだからだ。

その最終章の中に、「あと10~20年でなくなる職業と残る職業のリスト」というオックスフォード大学の論文が引用されている。

10~20年でなくなる職業は次のようなものだ。

1)電話販売員(テレマーケター)

2)不動産登記の審査・調査

3)手縫いの仕立て屋

4)コンピュータを使ったデータの収集・加工・分析

5)保険業者

・・・・

8)税務申告代行者

・・・

10)銀行の新規口座開設担当者

・・・

15)証券会社の一般事務員

・・・

20)銀行の窓口係

一方10~20年後まで残る職業は次のようなものだ。

1)レクリエーション療法士

2)整理・設置・修理の第一線監督者

3)危機管理責任者

・・・

5)聴覚訓練士

6)作業療法士

・・・

11)栄養士

12)宿泊施設の支配人

・・・

16)教育コーディネーター

・・・

25)メンタルヘルスカウンセラー

このリストを見ると「銀行の窓口業務」など、作業がルーティンで「手続き化しやすい」職業は、機械や人工知能に置き換わる可能性が高いと判断されていることが分る。一方カウンセラーのような「対人コミュニケーション力」が必要な職業は、近未来では機械に置き換えることが難しいと判断されている。

また「危機管理責任者」のように、直観力が重視される仕事も簡単にはなくならないと考えられている。つまりビッグデータを分析することで、ルーティン作業の多くは、人工知能が代替する可能性が高いが、過去データの分析からは対応方針が打ち出せない「例外処理」は、人間の仕事として残るという訳だ。

新聞を見ると、今の日本では「売り手市場」と言われるほど、新卒者への求人が増えている。そして新卒者は大企業志向が強いと聞く。しかし10~20年のスパンで考えると、大企業のサラリーマン(ウーマン)になることが、優れた選択なのかどうか疑問がわかないでもない。何故なら色々な手続きがルーティン化されている大企業において、若い社員が「例外処理」を担当する機会は多くないと判断するからだ。

オックスフォード大学の論文が正しいとするならば、10~20年先でも必要とされる能力は「対人能力」と「過去の例に頼ることができない例外を処理する能力」ということになる。企業を経営する能力の中核にも「例外を処理する」つまり新分野を開拓する能力がある、と考えて良いだろう。

ここまで考えてくると、学校での勉強についても考える必要があるかもしれない。

例えば語学の勉強だ。著者の松尾氏は「(人工知能が進めば)機械翻訳も実用的なレベルに達するため「翻訳」や「外国語学習」という行為そのものがなくなるかもしれない。・・・わざわざ時間をかけて英語や中国語を学ぶ必要はなくなるだろう」と述べている。

この話には時間軸が示されていないが、ビッグデータの活用で「何時かは」機械が翻訳を担う日が来るのではないか?と私は考えている。

しかし同時に「生き残るスキル」の中核を「対人コミュニケーション力」と「例外処理能力」とするならば、それらの能力は「古典や歴史の勉強」「かなり腰の入ったクラブ活動」「長期の海外滞在などによる異文化理解」などにより養われるはずで、そのためには「会話力」としての語学力の必要性がなくなることはない・・・だろうと私は考えている。つまり重箱の隅をつつくような語学勉強は意味がないが、ある程度の会話力は必要だろうということだ。

いずれにしてもこの本の示唆するところは大きい。「さらり読み」の次は「精読」をして見たい本の一つである。

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