今日(2019年4月1日)から「働き方改革法案」が順次施行される。その一つが「年5日以上の有給休暇の取得の義務化」だ。
実は私はこの「有給休暇取得の義務化」に違和感を感じている。何故なら有給休暇は本来従業員の権利であり、年次有給休暇をすべて取得しても何の問題もないからだ。
オンライン旅行代理店大手のExpediaが世界各国の有給休暇取得状況の調査結果を発表している。
それによるとブラジル、フランス、スペインの有給休暇取得率は100%。日本は最下位で50%となっている。つまり日本では20日ある有給休暇の内平均的には10日取得し、10日は残していることになる。このデータは厚生労働省の調査(有給休暇取得日数9.3日)とほぼ整合している。従って平均的にみると年5日の有給休暇の取得はそれほどハードルの高い話ではないといえる。ただしこれは平均の話で業種や個別企業体では5日の取得が難しいところもあるから、有給休暇取得の義務化の意味がないというつもりはない。
それでもなお違和感、つまり馬車の前に馬を繋ぐのではなく、馬車の後ろに馬を繋ぐような違和感を感じるのは、休むことに対する罪悪感のようなものが労使双方そして政治家を含めて社会全体に淀んでいるからだろう。
以前ネパールに旅行した時酒場で一緒になったオランダ人から自分は長い休みを取りたいから、給料の高いオランダではなく、給料は安いが休暇制度が充実しているフランスで働いているという話を聞いたことがあった。そのオランダ人によるとフランスでは5年間一つのとことに勤めると1年間無給の休暇を取得することができるらしい。無給の休暇を取得するとはどういうことか?というと1年後に職場に戻ってきた時、自分のポジションが確保されているということだ。
これは無給1年間の休みの話なので直接有給休暇とは関係ないが、「仕事をする」という馬車の前に「自分の人生を楽しむ」という馬を着けるという意味では根底に横たわる問題は同じだろう。つまりフランスでは「人生を楽しむ」という馬が仕事を牽引しているのに対し、日本では「仕事をする」という馬車が「人生を楽しむ」という馬を引き回しているような気がするのだ。
前述のオランダ人の話に戻るとバケーション好きの欧州でもオランダあたりは多少日本的なところがあるのかもしれない。ラテン系の国で「人生を楽しむ」という馬が仕事という馬車を牽引するのに較べ、新教色の濃い国では多少なりとも仕事という馬車が前にでる傾向がある。
なお前述のExpediaの調査によると日本の次に有給休暇取得日数が少ない国は米国で、米国では14日の有給休暇の内10日取得となっている。Expediaには詳しい説明はないが、実は米国には法律で定められた有給休暇という制度はない。極端にいうと有給休暇を付与しない雇用契約も有効ということだ。ただしそんな劣悪な雇用条件では人が集まらないから慣行として相応の有給休暇が付与されている訳だ。
休暇制度という面では米国はかなり世界標準からは外れているのである。
有給休暇取得を義務化している国もあるようだが、これまた世界標準からは外れているのではないだろうか?
有給休暇制度というものは、休日制度や宗教、社会慣習などの影響を受けてそれぞれの国で独自色のあるものだから世界標準に合わせる必要はない。だがそれでもなお、「人生を楽しむ」という馬を仕事という馬車の前に繋ぎたいと私は思っている。