AI(人工知能)に関する記事や広告をインターネットで見かけない日は少ない。
ITリサーチ・コンサルタント会社ガートナーの調査によると全世界の企業の9割以上のIT担当役員が自分の会社で3年以内に何らかの形でAIを展開したいと考えている。
WSJはWill AI destroy more jpbs than it creates over the next decade?という記事で今後10年間でAIは人間の仕事を奪うのか?それともAIは雇用を創出するのか?という点について識者の意見を紹介していた。
識者の見解は対立している。
AIが人間の仕事を奪うと主張しているのはオックスフォード大学のカール・ベネディクト・フレイ博士だ。博士は2013年にAIの発展で米国の仕事の47%は自動化されるだろうというショッキングな見解を発表している。
博士は歴史的に見て長期的には新しい技術が人類にプラスに働くことは明らかだけれど、短期的には色々な分野で人間の仕事を奪う、そしてこの短期的というのは相当年数続く可能性がある、と述べている。
博士は産業革命などの事例から短期的には機械化のため仕事を失う人が増え、特に低所得者層では可処分所得が減少したと述べる。
一方AIは新しい雇用を創出すると主張するのはIT関係シンクタンクの代表者ロバート・アトキンソン氏だ。
アトキンソン氏は「AIアルゴリズムやコンピュータを使った機械などによる自動化は生産性の向上に寄与する。生産性が向上するということは商品の値段が下がるが賃金が上昇することを意味する。そしてそれはより多くの消費と投資を生むから雇用を創出する」と述べる。
またアトキンソン氏は「(前述の)フレイ博士のAIにより米国の雇用の47%がリスクに晒されるという分析は実証的なものではない」と述べ、最近OECDが推定した「AIにより米国の雇用の8%がリスクに晒される」という見解を支持している。
アトキンソン氏は「多くの利用者にとってAIは人間の仕事を代替するものではなく補完するものだ」と述べ、AIの力を活用しながら医者はガンの発見を行っていくだろうが、AIが医者の仕事を奪うことはないのだ、と続けている。
AIは人間の仕事を奪うのか?それともAIは雇用を創出していくのか?
2つの意見は真っ向から対立しているように見えるが一つの共通点はある。それは低スキルの労働者はAIや自動運転機械に代替される可能性が高いとフレイ博士もアトキンソン氏も考えていることだ。
ただアトキンソン氏は低スキル労働者の問題は「政治家が解決しうる管理可能な問題」と考え、低スキル労働者がスキルアップすれば、ベビーブーマーの退職が続く米国では雇用機会を見つけることが可能と考えている。
ところで日本では2020年から小学校でプログラミング学習が必修になるそうだ。これもAIの進展に対する政治家の事前対応とみることができるだろう。だがプログラミングを小学生から学ぶことがAI時代の職業能力アップにつながるのか?というと個人的には疑問に感じている。
なぜならAIの時代になったとしても全員がAIに関するプログラムを作成する訳ではない。むしろ多くの人は医者やその他のユーザとしてAIの力を借りながら、AIではできない仕事をしていく訳である。つまりAIのプログラマーも必要だろうが、AIではできない仕事をする人へのニーズは高まると考えた方が良いだろう。AIではできない仕事つまり人間的な仕事をするには、広い意味の人間力をつけることが重要だろう。
そう考えると小学生に最も必要なのはプログラミング能力ではなく、人間力をつけることに繋がる「聞く」「話す」「読む」「書く」「論理的に推論する」といった基礎学力だと私は考えている。