WSJに、OECDが中間所得層の縮小に警鐘を鳴らすレポートを発表したという記事があった。
記事とそれに関する情報収集の結果は次のとおりだ。
- 1985年当時中間所得層の総収入は富裕層の総収入の4倍あったが、現在では3倍弱に減少している。中間所得層の収入が伸び悩む一方生活費、教育費、医療費は収入の伸びをはるかに上回るペースで増加し、中間所得層の借金が増え、中間所得層には不安が広がっている。
- OECDは中間所得層を所得の中央値の75%から200%に入る世帯層と定義している。記事は米国の単身世帯層では、年間所得が23,400ドルから62,400ドルの層が中間所得層であると定義されると例示している。日本の例は出ていないが、私が厚生労働省が発表している「所得の分布状況」から計算すると所得の中央値は427万円なので、年間所得が320万円~854万円までの世帯が中間所得層ということになる。「米国より高いじゃないか?」と思う人がいるかもしれないが、米国の例は単身世帯だが日本の例は全世帯ベースである。
- なお厚生労働省の世帯別所得統計は所得の平均値と中央値が併記されている。ちなみに平均値は547万円で中央値427万円より高い。これは数少ない高額所得者が沢山稼ぐことで所得の「平均」を押し上げていることを示している。
- OECDのレポートによると過去30年間で中間所得層の割合は64%から61%に減少している。中間所得層の落ち込みが激しいのは、米国・イスラエル・ドイツ・カナダ・フィンランド・スウェーデンである。
- 日本の中間所得層の割合は65%でOECDの平均より高い。また日本では世代間でも中間所得層の割合は安定しているので中間所得層縮小の問題はそれほど大きくはないのかもしれない。ただしWSJは日本の26歳のメディアマーケッティング会社の従業員の「副業を行わないと中間所得層入りは不可能だ」というコメントを紹介していた。
- またOECDは中間所得層の2割では支出が収入を上回っていると推定している。そして中間所得層の借金の割合は富裕層よりも貧困層よりも多いと推定している。
- 世界的にみると家賃の上昇が中間所得層を家計を直撃している。OECD全体では家計に占める住宅支出割合は2005年の27%から2015年の32%に拡大している。ただし日本では住宅支出割合は21%から19%に減少している。
以上のことから何を読み取るべきだろうか?
「日本では中間所得層の減少はそれほど大きくないので重視する問題ではない」という見方ができるかもしれない。一方「副業を行わないと中間所得層入りは不可能だ」とか「大量の残業によって辛うじて中間所得層のレベルに留まっている」という実態面を見れば日本でも深刻な問題だという見方になるだろう。そしてその背景に大きな意味でのBPOやAIなど中間所得層の仕事を減らすような技術革新が進行しているという世界共通の問題を日本も抱えていると考えるべきなのだろう。