「ファクトフルネス」を1/3ほど読んだところで、ホラーストーリーとサクセスストーリーのことを思い出した。
「ホラーストーリーとサクセスストーリー」というのは、プレゼンテーションやマーケッティングで重要な概念だ。
人には「恐怖を避けたいという欲望」と「成功したいという欲望」があり、「恐怖を避けたいという欲望」の方が「成功したいという欲望」より強いというのが「ホラー/サクセスストーリー理論」の基本だ。
例えばトイレの芳香剤を売ることを考えてみよう。「トイレで良い匂いがするとお客様に喜ばれますよ」というのがサクセスストーリーだ。
「トイレが臭いと近所で悪い評判が立ちますよ。だから芳香剤を買いなさい」というのがホラーストーリーで、ホラーストーリーの方がサクセスストーリーより訴求力が強いと言われている。
これは人間に恐怖本能が備わっているからだ。「ファクトフルネス」は人は何を一番恐れるか?という質問の答は「蛇・蜘蛛・高い場所・狭いところに閉じ込められること」の4つだという。
何故これらのものに恐怖を感じる本能が備わっているか?というと、その本能が太古から人が危険を回避するために必要だったからである。
私が子供の頃は田んぼのあぜ道などでマムシを見かけたことがあった。飛んで逃げたものだが、これは蛇(特に毒蛇)は怖いという本能が受け継がれてきたことによる。実際毒蛇は怖い。今なお世界的には毎年6万人が毒蛇に噛まれて死んでいる。
「ファクトフルネス」は東日本大震災についても言及している。福島原発が津波に襲われた時、16百人以上の人(大部分は高齢者)が死んだ。しかし彼等が死んだ原因は原発の放射能汚染ではないと著者はいう。放射能汚染を受けるという恐怖から避難する過程であるいは避難場所での肉体的または精神的ストレスが原因で死んだのであり、放射能汚染で死んだ人は報告されていないと著者は述べる。
恐怖は事実に基づく判断力を奪う。例えば殺虫剤のDDTについてはWHOは長年の研究に基づき「DDTは少々人体に有毒だが多くの場合~たとえば難民キャンプなど~でマイナス面よりプラス面が多い」と発表している。にもかかわらずDDTの使用は相当難しい状況にある。
ホラーとサクセスに話を戻すと個人投資家というものもホラーとサクセスの間をさまよっているといえる。
つまり我々は「投資で財産を増やしたい」という欲望と「投資で財産を失いたくない」という欲望のはざまにいる。
行動ファイナンス理論によると人は1万円儲ける喜びよりも1万円失う悲しみの方が大きいという。この行動ファイナンス理論もホラー/サクセスストーリー論と整合している。
振り込め詐欺なども人の「恐怖本能」や「成功欲望」を巧みに突くことで現金を巻き上げているのである。
そのような詐欺被害を避けるためには、恐怖本能や成功欲望を抑えて「事実に基づく判断」をすることなのだがこれが難しい。
何故なら詐欺師は、被害者が事実に基づく判断をしないような色々な仕掛けを行っているからである。
ホラーストーリーやサクセスストーリーは多くの会社がマーケッティング手法として使っている。
それらの手法を一律に詐欺呼ばわりするつもりはないが、多くの話は眉に唾を着けて聞いた方が良いことは間違いない。