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心身と家計の健全のためには働き続けるのが一番~WSJの記事から

2019年07月24日 | ライフプランニングファイル

WSJにThe case against early retirementという記事がでていた。「早期退職に反対する理由」という意味である。

記事はコーネル大学やメルボルン大学の研究成果を紹介しながら、退職が体と心の健康に与える影響、家計面への影響を論じている。

これらの結論はほぼ日本にも当てはまるものだ、と私は考えているが、退職制度に関する日米間の極めて大きな違いを頭に入れた上で問題点を理解する必要がある。その大きな違いとは「米国には制度的な定年年齢がない」ということである。定年制度は年齢による差別に該当するので、連邦法はこれを禁止している。

さて記事のポイントを紹介しよう。

  • 大部分の人々は長年の激務への褒賞として退職を楽しみにしている。しかし他の多くの楽しみと同様にそれは健康に良くないかもしれないし、場合によってはあなたを殺すことがあるかもしれない。
  • コーネル大学とメルボルン大学の研究によると、米国男性では公的年金の受給資格を得ることができる62歳を超えた月に死亡率が前月に比べ2%上昇していることが分かった。死因の大部分は肺がんと慢性的な肺疾患だった。
  • また2009年にドイツで行われた勤続延長に対する税制優遇措置(62歳なら5%のボーナス、64歳なら10%のボーナス)の死亡率に与える影響を分析したボストン大学の研究は、勤続延長は男性の5年間死亡率を32%減少させたことを明らかにした。

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これらの研究は、退職が死亡時期を早めるということを決め付けるものではなく、今後さらに実証的な研究が必要だ。

しかし一般的な知見から見て「働き続ける方が健康に良いこと」「働き続けるというのは、給料を貰う仕事でなくてもボランティア活動でも良い」ことをこの記事は強調している。

  • 退職して自宅で過ごす時間が多くなると居間に座ってテレビを見る時間が長くなる傾向があり、食べ過ぎ、飲み過ぎになりやすい。
  • 仕事を遂行するという目標がなくなると空虚感を感じて鬱になる可能性がある。
  • 仕事仲間がいなくなると社会的に孤立する可能性がある。
  • 知的刺激を与えていた仕事がなくなると、認知能力の低下が加速する可能性がある。

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良いニュースは現在のアメリカ人男性は過去に較べて勤続年数が増えている。1950年から1993年の間に65歳以上の男性の労働参加率は69%から28%に低下したが、リバウンドして昨年は46%になっている。

最初にアメリカには定年年齢はないと書いたが、実際には年金受給開始時期(フル支給は66歳)を見ながら退職を決めている人は多いようだ。

記事は「働き続けることにはメリットがあるのだが、障害はある。その一つは心理的なものだ」という。多くの人々はある年齢までに退職すべきだと感じている。何故ならそれが常に行われてきたことだからだ。

また雇用者側はシニア層は給与が高く、最新のスキルに欠け、仮にトレーニングを実施しても成果が出る前にやめる可能性があるので、シニア層の新規雇用には二の足を踏んでいる。

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日本でも政府が企業に70歳までの雇用延長を努力義務として求めていく方針だ。

しかし「働き続けることが心と体の健康に明らかにプラスであり、認知症の予防にも寄与する」ということが広く国民全般や雇用者の共通認識になっていくことが必要だろう。またその認識を支える基礎研究が必要だ。

さもないと「死ぬまで働けということか!」「年金問題を糊塗するのか!」などといった見当違いな意見が野党の一部から出てくる可能性がある。

なおここでは紹介しなかったが、働き続けることが老後資金に厚みを付け、活動の選択肢を広げることは自明である。

コメント
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