戦争に関するニュースはバイアスがかかっているものが多い。米英を中心とする西側諸国のクオリティ・ペーパーのニュース記事はある程度信頼できると考えているが、それでも記者の無意識の意図が入っていると考えておいた方が無難かもしれない。そのような前提の下で「ウクライナ戦線でロシアが苦戦している」というWSJの記事を紹介したい。なおこのようなロシア苦戦という記事は西側諸国の政財界のリーダーのみならず一般国民にも共有され「ウクライナ支援にはかなり疲れてきたが、ロシアが苦戦しているならもうひと頑張り支援しよう」というムードを醸成するだろう。ロシア軍弱体化、という記事はウクライナにとって大きな援軍であることは間違いない。
記事はRussia moves to reinforce its stalled assault on Ukraine「ロシアは膠着した攻撃をテコ入れする動き」というものでポイントは次のとおりだ。
- ロシアはウクライナ東部と南部で占領地をロシアに併合する国民投票計画を控え膠着した戦線のテコ入れを図ろうとしている。
- 軍事アナリストによるとここ数週間で義勇軍部隊を募り、モスクワの東250マイルのムリーノMulinoにある軍事基地で義勇軍部隊を第3軍という名前でウクライナ戦線にはほとんど配備されていない近代兵器を使った訓練を行っている。だがソシアルメディアによると、義勇軍の新兵たちは日没後酔っぱらって通りをさまよい、地元の女性たちに嫌がらせをしているという。
- またプーチン大統領とつながりの深い軍事会社ワグネルは、ロシアの刑務所で戦闘意思のある囚人探しに走り回っている。
- しかし米国のシンクタンクInstitute for the Study of Warは「装備が優れていても、兵員が十分訓練され、規律正しくなければ必ずしも有効な軍隊にはならない」と述べ、義勇軍部隊がウクライナ戦線の軍事バランスを変える可能性を軽視している。
以下は私の想像だが、仮にロシアの義勇軍や囚人兵が投入されるとするとドンバス地方だろう。米海軍の退役提督Stavridis氏は「プーチンは戦略レベルで失敗したと思う。彼が失敗を取り戻すこととはありえないが、彼はまだドンバスの奪取に集中従っている。そのために新しい兵士が必要なのだ」と述べている。
十分な訓練を受けず、つまり個人としても部隊としても戦闘能力の低い新兵はいわば人間の盾として前線に投入される可能性が高い。新兵たちの血の犠牲の上にロシアはドンバスを自国領に取り込む国民投票を実施できるのかどうか?というのが一つの分岐点かもしれない。
ザポリージャ原発での攻防などウクライナ戦線には予測がつかないことが多いので、ロシアの兵員不足が直ちにロシアの撤退につながるとは思わない。
しかしロシア軍の人的消耗度合いはこの戦争の行方を占う鍵になることは間違いなさそうだ。