金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

大いなる安定時代は終わるのか?

2007年09月22日 | 金融

エコノミスト誌は「最近の金融危機は安定成長の黄金時代の終わりのシグナルか?」という記事を発表している。

ポイントは以下のとおり

  • 米国程順調な経済を持った国はない。過去20年以上うらやましいことに堅実な成長と低いインフレをうまくコントロールしてきた。この幸運に加えて支出は日常的に収入を超えていて、その結果経常収支の赤字を招いていたが経済に明らかなマイナスの結果をもたらさなかった。
  • 近時は他の先進国も米国と同様の経済的安定を享受している。ビジネスサイクル(循環的な景気変動)の変動は過去に比べてよりスムーズになっている。これは部分的には金融資産と住宅資産の拡大および企業と家計が積極的に債務を取り入れたことによる。

エコノミスト誌によると安定成長の時代、別の言葉でいうとGreat Moderation(大いなる安定)が終わったのかどうかについて楽観論と悲観論がある。

  • もし成長と安定のコンビネーションが単に幸運の賜物だったのであれば、今から痛みを伴う修正が始まる。しかしもし世の中が動く仕組みの変革が安定成長をもたらしていたなら、黄金時代は今後も続くことを意味するのだろうか?

経済成長率のボラティリティは90年代以降低下している。

  • 最も目に付くボラティリティの低下は労働市場にある。80年代中頃から米国の失業率はその前の世代に比べて顕著に変動幅が少なくなっている。61年から83年の間米国の年間失業率は3.5%から9.7%だったが、84年以降は4%から7.5%のレンジになっている。

この様な変化の裏にあるものは何だろうか?「黄金時代」と呼ばれた時代にもアジアの通貨危機だとかロシアの債務不履行、ドットコム・バブルの崩壊などがあったが、経済のボラティリティはそれ程上昇しなかった。これについて学者は「在庫管理の改善」「信用市場を拡大した金融改革」「より賢明な金融政策」をそのドライバーとしている。

  • 在庫はGDPに対して占める割合が小さいが、景気変動に与える影響は驚くほど大きい。技術革新によりメーカーは買い手に関するより良い情報を入手することができ在庫を圧縮することができるようになった。在庫圧縮効果は今後とも持続すると考えられる。
  • これに比べて金融改革のメリットはより疑わしい。少なくとも今のところは。信用スコアリングや証券化により信用供与が拡大した。消費者を例にとると、生涯の収入を見合いに今の支出に必要な借入を行うことができるようになった。

ここでエコノミスト誌は悲観論を持ち出す。それは経済の安定成長をもたらしたドライバーの一つである「金融改革」が突然それを脅かすことになったという。

エコノミスト誌の記事はかなり長いので、この辺りで省略するが結論は「米国が最大のリスクとして残っている」「今もし米国がハードランディングするなら、それは他の先進国の予告になるだろう」ということだ。

若干解説を加えておくと「経済と労働市場の安定が、消費者に大きな借金をすることを可能にしそれが不動産価格の上昇につながり、不動産価格の上昇が消費を拡大させそれが経済成長につながる」という循環があった。その過程で現在の収入をベースにするとローンを借りることができない人まで「担保住宅の値上がり期待」をベースに借金をした。これが「大いなる安定時代」の一つの断面である。従って不動産価格の下落をスタート点にしてサイクルが逆転しだすとハードランディングする可能性が高いというのがエコノミスト誌の見方だろう。

当然もっと楽観的な見方をする人もいる。評論家であればどんな見方をしてもよいが、投資家の立場でいうと、かなり重大な判断を求めらるところだ。

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今、どう資産を配分するの?

2007年09月21日 | 金融

昨日ブログに次のようなコメントを頂いた。

米国がリセッションに向かう確率が1/3と取りざたされています。米国がリセッションに向う危険が高いとき、私たちの金融資産のアロケーションはどうするのが良いでしょう。アドバイスをお聞かせ願えれば幸いです。特に金融資産を外貨(ユーロや高金利通貨など)にしておくのは良い対策と言えるでしょうか?

以下のような前提の下で私の考えを述べてみたい。なお当然のことながらこれは今の時点での個人的な判断であり、投資の安全性や収益性について何らの保証を与えるものではないことをご承知おきください。

  • ある程度ミドルリスク・ミドルリターンを目指す。
  • 資産の運用期間が中長期で中途換金の必要性が低い。
  • リスク(運用期間中に資産の評価額が目減りすること)に対する許容度がある。
  • 世界の経済・政治状況の変化に弾力的に対応していくことができる。

お勧めできる資産クラス

ユーロ建ての短期金融商品(MMFなど)、アジア等新興国株式を対象とする投信、エネルギー・食料等のテーマに特化した外国株投信

私がクスポージャーを落としたいと考えている資産クラス

米ドル建ての短期金融商品、日本株(ただし資源・海運等いくつかのセクターは注目したい)、豪ドル・NZドル等マイナーな高金利通貨商品

【上記判断の理由】

  • 米国景気については、リセッションが起きる可能性が半分位はあるのではないかと考えている。理由は今までが順調過ぎたこと。山高ければ谷深し。また連銀はリセッションを回避しようとして連続的な金利引き下げを行う可能性大。従って米ドルは他の通貨に対して弱くなると判断する。
  • 金利引き下げはインフレ懸念を生む。原油、穀物価格が一層上昇する可能性は高い。
  • ここ数年間欧米諸国では住宅ブームが経済成長を牽引してきたが、米国と英国ではサブプライム・ローンに見るようにレバレッジの度合いが高い。それ故住宅不況に陥ると経済に与える影響が大きい。大陸欧州はそれ程住宅にレバレッジがかかっていないので英米よりはマイナス影響が小さい。
  • 住宅バブルがないのは(一部例外はあるにせよ)アジア諸国。アジア諸国については米国のリセッションの影響を受けるが国内市場が拡大しつつあるので、クッションがある。
  • アジア諸国については成長余力が高いので、株式投資対象としては最も妙味がある。日本については米国がリセッションに入ると実物経済と株式投資の両面で影響を受ける。政治が経済改革路線から後退することもマイナス要因。世界の投資家は日本が政治経済面でどれだけ真剣に少子高齢化に取り組むかを見ているが、今の政治は私には問題先送り型に見える。

以上簡単ですがご質問に対するご回答にさせていただきます。

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親父を見て考えた医療問題

2007年09月20日 | 健康・病気

この前の連休には京都の実家に帰った。親父の体調が気がかりだったからだ。親父はここ数年前立腺の病気で医者にかかっていたが、漸く適切な治療を受けられて少し楽になった様だ。「随分医療費がかかるんだろ?」と気になり多少のお見舞いを渡したが、老人保健のおかげで1割自己負担で済んでいるということだった。ナルホド、ところで残りの9割は誰が負担しているのだろう?また今後高齢化が進む中でいつまでも1割負担で済むのだろうか?といった疑問がわいてきた。

そんな時中央三井信託銀行の調査レポート(最新版)で「わが国医療の現状と課題」というレポートを読んだ。日本の医療制度の特徴が簡潔にまとめられていたので、ポイントを紹介しよう。

  • わが国の医療制度は「国民皆保険」「フリーアクセス(患者が医療機関を自由に選べる)」「出来高払いを中心とした診療報酬点数(公定価格)制
  • 一人当たり医療費は2,358米ドルとG7国中最低(米国は6,037ドル、ドイツは3,169ドル)、医療費の対GDP比率も8.0%と最低。
  • 日本の年齢別医療費を見ると、45~64歳が約25万円、65歳以上が66万円、75歳以上が82万円と高齢になればなるほど高くなる。
  • 医療費の財源別割合は保険料が49.2%、税金が36.4%、患者負担が14.4%。
  • 一般歳出に占める医療費の国庫負担割合は1970年の10.1%から2004年の17.1%へとほぼ一貫して増え続けている。
  • 人口千人当たりの医師数はOECD加盟30カ国中27位、看護婦数はちょうど真ん中。一方病床数は際立って多く、病床当たりの医師数、看護婦数は少ない。

ざっとこんなところだ。このレポートの数字や米国で診療を受けた経験を踏まえて日本の医療制度の問題点を私なりに整理してみよう。

  • 日本の効率的な医療システムは世界一の長寿化に貢献している。しかし「患者の生活の質の向上」とか「患者の人権重視」という点で日本の医療制度が良いとはいえない。具体的にいうと日本の病院では余り予約制度がない(今は歯医者は予約が一般的だが、昔は歯医者も予約制が少なかった)。このため患者が病院で延々と待つことになる。つまり患者の自由時間を奪い、生活の質を低下させることと引き換えに効率的な医療を提供している。

なお日本人の長寿さをもって日本の医療が優れていると断定することは危険だろう。寿命の長さには全般的な生活水準、食生活の慣習、公衆衛生、医療水準、生活慣習等多くの要素が絡んでいる。

  • 医者が威張っている(最近は少し良くなったが)。患者の人格を無視して、医療を施してやるという姿勢が目立つ。一方アメリカでは医者もサービス業だという認識が強く、患者の人格を尊重した応対をする。
  • 生活の質の改善を目指したベストの治療を受けられる可能性が少ない。

個人的な話だが、若いときから私は何回か腎臓結石を患ってきた。日本で病院に行くと医者は「痛いだろう。腎臓結石は。でもこれで死ぬことはないから、水かビールを飲んで縄跳びでもして早く石を落としなさい」などと冗談とも本気ともつかぬことをいう。当時超音波で結石を砕く方法も輸入されていたが、保険外治療でべらぼうに高かった。

その後しばらく米国に暮らした時、再び結石が悪化したので医者にかかると直ぐ超音波治療を行ってくれた。米国では公的な健康保険はなく、私的な保険制度に加入する。日本のような保険外治療という概念はなさそうで私的な医療保険で7,8割の治療費がまかなわれたと記憶している。(これはやや古い話で今では日本でも超音波治療は保険対象になっていると聞く。)

ところで親父の前立腺の治療に手間取った理由だが、一つは親父が「病気の初期の段階で医者にかからなかったこと」で何といっても自己責任である。ただ敢えて制度の問題をいうと日本では「ホームドクター」制度がなく、いつでも何でも気楽に相談できる医師が身近にいないという問題があることは確かだ。

高齢者が何でも気楽に相談できる医者~しかもその医者が「一切酒を飲んではいけません」などと人生の楽しさを無視するような態度ではなく、人生の楽しさと健康のバランスを理解した人間として豊かな医者である場合~、ホームドクター制度というのは、トータルとしての医療費削減と患者の生活の質の改善という二律背反的な命題に対する一つの回答になるのではないか?と私は考えている。

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米国の住宅不況の深さ

2007年09月20日 | 金融

欧米の中央銀行が金融緩和に動いたことで、世界の株価は急反発した。しかし投資家の間に安心感が広がるには程遠いだろう。最大の懸念は米国の住宅不況がどれ位深刻かということだ。この予測と当局の対応が米国の経済と世界の経済に大きな影響を与える。慎重な投資スタンスを取るならば、米国の金利引き下げを株式市場が好感して戻ってくれば、少し売っておくのが手だろうと私は考え始めている。

FTによるとイエール大学のロバート・シラー教授が米国の議会の経済小委員会で話をした。シラー氏というのは米国の代表的な住宅価格指数であるS&Pケース・シラー指数を考案したことで有名だ。この指数は当面非常に重視される指数だ。また同氏はドットコム・バブルの崩壊を予測したことでも有名だ。以下は記事のポイント。

  • 「今回の住宅価格の崩壊は大恐慌以降最も厳しいものであることが判明するかもしれない」「住宅不況の影響が及ぼす程度と期間について予測することは困難だ」とシラー教授は述べた。
  • 「住宅価格がピークから2桁(のパーセント)下落しても驚くべきことではない」とグリーンスパン前連銀議長が今週FTに告げた。このような住宅価格の下落は米国では先例がない。そしてその経済的影響は現在の金融危機を招いているサブプライム市場の崩壊の数倍の大きさがある。
  • The Center for Responsible Lending(仮訳「責任ある貸出センター」非営利団体、詳しいことは調べず)の予測によるとサブプライム・ローンの競売によるホーム・エクイティの損失は累積1,640億ドルになるだろう。投資銀行が示唆するところでは金融機関のコストは3千億ドル以上になるという。
  • 専門家は議会の経済小委員会で「住宅価格が15%下落すると家計の富が3兆ドル失われる」と証言した。American Enterprise Institute(米国右派のシンクタンク)のポロック特別研究員は「住宅用不動産は巨大な資産クラスであり、その資産価値は21兆ドルになる。いうまでもなく大部分の家計にとって最大の資産である。」と述べた。「一年前は一部の地域で住宅価格が下落することはあったが全国ベースで住宅価格が下落することはなかった。しかし今では全国ベースで住宅価格は下落している。」

以前にもブログで述べたが多くの米国人は退職時までに住宅ローンを完済し、自宅を売却して別荘地に移住したり、コンパクトな家に住み替えることを考えている。売却差益を資産として当てにしている訳だ。それが借金してでも消費を享受する経済的裏付けになっている。それは住宅価格は下がらないという信頼の上に成り立っているが、その前提が覆ると消費者の心理は冷え込んでしまうだろう。

米国はまことに難しい局面に差し掛かった様だ。80年代の日本の不動産バブルがどれ程尾を引いたかなどと考えながら、資産配分を考える時かもしれない。

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英国の取り付け騒ぎが教えること

2007年09月19日 | 金融

先週後半から英国のノーザンロックという中小金融機関で取付騒ぎが起きている。銀行の取付騒ぎを英語ではbank runという。インターネット上のABOUT.COMという辞書サイトでBank runのことを見ていたらFederal Deposit Insurance has ended the phenomenon of bank runsという説明があった。連邦預金保険が銀行取付という現象を終了させているという意味だ。これは連邦預金保険がある米国では今のところ正しいが、英国では正しくなかったということになる。もっとも今回の騒ぎがあるまで英国でも正しかったのだが。というのは英国では1866年以降銀行取付騒ぎはなかった。米国、ドイツ、日本などでは1930年代初めの恐慌時に銀行取付を経験しているし、日本では90年代後半に多くの銀行で預金者の行列ができたことは記憶に新しい。

ところで今回の取付騒ぎを見ると「金融の世界では技術は進歩しても人々の心とか行動パターンは変わらないなぁ」という思いを新たにするものだ。産業革命で先発メリットを享受した英国だが、激しい技術革新のためドイツなど後発の工業国の方が最新設備を導入したため、長らく工業面で苦戦した。これは今回の話に共通するところがある様だ。19世紀中頃の取付騒ぎの教訓として英国中銀の役割は「最後の貸し手」になることだと自覚し100年以上も取付騒ぎのない金融システムを維持してきた。そのため預金保険の整備が遅れたのは皮肉な話である。

今回のノーザン・ロックの取付騒ぎは英国の預金保護が米国に比べると不完全な点に帰するところがある。一つは保護される金額の上限。細かい説明は省くが米国では10万ドルまでの預金はフルカバーされるが、英国では保護の上限はその6割程度でかつ2千ポンドを超える部分は9割しかカバーされない(最高限度は31,700ポンド)。また米国では銀行破綻から数日で支払われるのに対し、英国では最長半年かかるという。

今週月曜日に英国のダーリン財務相は現在の不安定な金融環境下預金は全額保護すると発表した。これで取付騒ぎは一段落した様だが、モラルハザードに対する批判が起きている。つまり「預金者が今後預金は全額保護されると考えると安全性が劣っても金利の高い銀行に預金をシフトするようになる」という批判だ。

これらの話を聞くと「金融における先進国とはなにか?」という疑問を新たにする次第だ。技術は進歩しても人々の恐怖心やモラルに進歩はないということなのだろう。

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